ラウペ

巨匠サム・ペキンパー監督の伝説的戦争映画。
製作40周年のデジタルリマスター版での上映。

1943年の東部戦線、クリミヤ半島対岸のドイツ軍陣地に新任のシュトランスキー大尉（マクシミリアン・シェル）が赴任してくる。そこには伝説の小隊長シュタイナー伍長（ジェームズ・コバーン）が居た・・・
プロイセン貴族出身で資本家のシュトランスキーは名誉欲に駆られ、鉄十字章欲しさに前線を志願してきたのですが、権威を嫌い、戦功や昇進にはまったく関心のないシュタイナーとは水と油、物語はこの二人のまったく相容れない価値観の相違が生む軋轢を軸に戦争の悲惨さと儚さを描いていきます。

戦争映画の定番中の定番といわれる本作ですが、40年の歳月を経てもなお、その強烈な映像は色褪せないばかりか、ナチス・ドイツの軍隊内の出来事を描いていながら、政治思想や戦争の背景といった要素は最小限に抑えられ、実社会でよくある「相容れない者」同士の相克の顛末を一つの寓話として見せてくれます。
双方にはつき従う部下がおり、二人の相克は単に二人の間に留まらず、周囲の人々にも影響を与えていくことになりますが、難しい上司を持つサラリーマンには「組織あるある」な話として頷けるところも多いと思います。




迫力や音響といった戦闘場面の描写についてはこの40年で更にリアルで本作を上回る映画もできましたが、スローモーションを多用し、独特の美意識を前面に出したペキンパー監督のスタイルは今見ても新鮮なものがあります。
当時の戦争映画のスタイルとしてドイツ兵はみな画一的で均質な表現が一般的な中、これほどラフで、個人ごとに様々な服装をして登場する映画は稀であり、画期的なものがありました。
特にジェームズ・コバーン扮するシュタイナーの魅力は今見ても圧倒的で、敵の狙撃兵に狙われるのを避ける為に階級章を外し、襟を立てる前線指揮官としての風貌は実に説得力のあるものです。
マニア目線で見てもシュタイナーは左胸に鉄十字章はもちろん、白兵戦章（金色）、歩兵突撃章、戦傷章、左腕にはクリミアシールドを佩用し、1943年東部戦線の南部戦区における伝説的指揮官として考証的にも完璧といえるスタイルを再現しています。

物語は次第に二人の対立が決定的なものとなり、戦争という極限状況のなかで、「漢」の決着の付け方はどうあるべきか、ひとつの形をみせつけられます。
DVDなどで何度も見ている本作ですが、私、齢50を過ぎて、その結末に改めてシビれました。

また、エンドタイトル中にベルトルト・ブレヒトの詩が掲げられ、不毛な戦争へと向かう愚かさへの普遍的な警告を見ることができます。
決して平穏とはいえない今の時代に、この警告はよりリアルで身近に感じられるのではないでしょうか。


『戦争のはらわた』
9/16（土）～9/29（金）
連日①10：20
ＨＰ http://cross-of-iron.com/