アカデミー賞発表目前で公開される作品賞最有力候補の1作。
事前の予想では「スリー・ビルボード」というこれまた強力なライバルと一騎打ちといった様相で、どうしても作品賞の行方に目が行ってしまいがちですが、鑑賞後には結果などどうでもよくなる、そんな作品です。
冷戦下の1962年、アメリカの極秘施設に運び込まれた半魚人。そこで働く口のきけない清掃係の女性が「彼」と出会うことで起きる出来事を描くこの作品は、端的に言えば、やはり大人の純愛ファンタジーというべき作品。
(C) 2017 Twentieth Century Fox
冒頭の数分間のシークエンスからしてもう画面にのめり込んでしまうくらい作品の世界観がはっきり表れていて、これは最後までずっと変わることはありません。
いかにも1960年代前半らしい細部のディテールに、画面全体を覆うウェットな青くてほの暗い描写、映像を見ているだけでうっとりしてしまうのです。
日本語の字幕が青の補色である黄色で表示されるのは心憎い配慮だと思います。
物語は半魚人と口のきけない女性の交流ののち、それが純愛の域に到達していくさまが描かれますが、ストーリー自体は想像以上にモンスター映画のお約束を踏襲しています。
多くを見せすぎているように見える予告が意外にも殆どネタバレとなっていないのはちょっとした驚き。普通のモンスター映画として気楽に楽しむこともできます。
そこに加えて描写されているのは社会的少数者同士の共感と恋愛という要素でしょう。
囚われの半魚人と口のきけない主人公以外にも黒人、ゲイ、共産主義者などの社会的マイノリティが登場し、1962年というおそらく戦後もっとも差別に対する軋轢が大きくなった時代を背景に描かれていきます。
このマイノリティの前に立ちはだかる悪役として登場するのがマイケル・シャノン演じる研究所の半魚人担当の責任者。
いささか類型的過ぎかなと思えるほどに典型的な悪役を怪演していますが、彼の役割はやはり時代を背景としたマイノリティへの壁を象徴する存在として描かれているのでしょう。物語の進行に伴って次第に狂気を帯びてくる彼の言動はある意味では小気味よささえ感じるものです。
(ついでながら、彼がトイレでのあるマナーに対する考え方を披歴するところはなかなか興味深いのでご注目を。笑)
いろいろ他にも書きたいことはありますが、あまりたくさん書くのはやめておきましょう。
思い返す程にかけがえのない愛おしい作品に思えてきます。
観終わって思うのは、この作品はギレルモ・デル・トロという監督が何かの制約を感じることなく、思いっきり自分のやりたいことを描いてみた、という印象を強く感じることです。
メジャー作品で一般受けや収益、レーティングといった要素を顧みることなく作家性を前面に押し出すことはおそらく今の時代にはそう簡単なことではないだろうと思いますが、こうした作品を世に送り出すことできたデル・トロという人は非常に幸せだろうなと思います。
観る側としてはこうした監督の個性を劇場で十二分に堪能し、幸福な映画体験ができることにささやかな歓びを感じるのです。
『シェイプ・オブ・ウォーター』
3/1(木)~3/16(金)連日①10:25 ②15:15 ③19:20
3/17(土)~3/30(金)連日①10:25 ②14:45 ③19:20
HP
http://www.foxmovies-jp.com/shapeofwater/