ラウペ

息子が従軍している夫婦の元に息子の戦死の報せが届く。母親は卒倒し、激しく落胆する父親。しばらくして戦死は誤報であることが分かったが・・・

映画は両親―息子―再び両親と場面が移っていく構成となっています。
はじめに悲嘆に暮れる父親の様子を克明に描写し、その痛々しさはやや表現過剰ではないかと思われるほど。これは後に誤報だと分かったときのコントラストを強める演出なのだろうと思うと、さにあらず。
誤報だと分かった父親は軍の担当者に向かって烈火のごとく怒りを叩きつけ、息子を即刻帰すように要求する。


(C) Pola Pandora - Spiro Films - A.S.A.P. Films - Knm - Arte France Cinema - 2017

両親の様子を描いた後、次に検問所で任務に就く息子の様子が描かれます。
けだるい気分のなかで、無気力に通過する車の検問を淡々とこなす毎日。泥濘地に置かれた休憩用のコンテナは徐々に沈んで傾きを増す。踝まで水に浸かる水たまりを毎日歩き、機銃や無線機にも水滴が滴る描写が続きます。このドロドロ、不衛生かつ雑然とした描写は監督の前作「レバノン」での戦車内の描写と明らかに共通するものがあります。
息子の任地は辺鄙な検問所のように見えますが、クルマが通過する描写は何回もあり、通過するのはみなパレスチナ人と思われるアラブ人で、その扱いには占領者と被占領者という明らかに平等ではない関係が読み取れます。
そのなかで、息子は仲間に父親とのあるエピソードを話しますが、けだるい雰囲気に包まれながらも、家に帰れば普通の暮らしをしていたことが窺えるのです。
イスラエルのおかれた状況や戦争に対する強烈な批判意識が息子のパートでは随所に表れていますが、「レバノン」で垣間見られた荒唐無稽とも思える描写は影を潜め、あくまで都会に住む両親の世界と対極にある世界を描いていきます。
途中で挿入されるマーラーの交響曲第5番のアダージェットが効果的に使われ、検問所とコンテナだけが全ての世界での諦観を表現していると感じました。

映画は再び両親の描写に戻りますが、断片的に描かれてきた父と息子、父と母との関係がそれぞれ進展を迎えることで、表題ともなっているフォックストロットの踊りの意味が次第に明らかになっていきます。
些細な描写が後になって意味を持つ展開、胸を打つ巧みな物語構成など、イスラエルの抱える固有の問題を織り込みながらも、普遍的な因果応報と思える人間の運命の成り行きを描き、深い余韻を残す作品となっていると感じました。


『運命は踊る』
10/27（土）～11/9（金）
連日①10：15　②15：10
ＨＰ http://www.bitters.co.jp/foxtrot/