作家志望のジョンスは街で偶然幼馴染みのヘミと出会う。ヘミはアフリカに旅行に行く間飼っている猫の面倒を見てくれ、と言って旅立つが、帰ってきたときはギャツビーのような、金持ちで遊んで暮らしているベンと一緒だった・・・
村上春樹の短編「納屋を焼く」を韓国のイ・チャンドン監督が映画化。
第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で是枝裕和監督の「万引き家族」とパルムドールを争いました。
制作にはNHKも加わり、昨年末に短縮版が放映されています。
(C)2018 PinehouseFilm Co., Ltd. All Rights Reserved
登場人物はほぼ3人だけ、それぞれが個性的で物語も殆どその3人の間でのみ進行します。
しかしこの作品、ストーリーはシンプルながら、決して分かりやすくは出来ていません。
描かれているのは物語に関係のあるごく一部、話の前後は観る者それぞれが補完しなければならないようになっています。
とはいえ、パンくずのように落とされた断片を丁寧に拾っていけば、おそらく物語から放り出されることはないと思います。
(細部に少しずつ矛盾する要素が混じっているように見えるところは観る者に画一的解釈をさせないためか、それともパンくずを上手く拾えていないのか?このあたりはそれぞれの観察力と想像力が試されるポイントでしょう)
説明的なところは皆無ですが、そのおかげで、自然で気の利いたセリフ、絶妙なテンポ感とカット割りの間合いなど、話を急ぐことなく印象的なシーンを繋ぐことに成功しています。
(C)2018 PinehouseFilm Co., Ltd. All Rights Reserved
NHKでの放映時は94分、劇場版では148分と1時間ほどの尺の違いがありますが、大雑把に言ってその違いはレーティングによるカット以外はほぼ後半の場面に集中しています。
とはいえ、映画版は単純にTV版に後半を付け足した、というのではなく、TV版で終盤に登場する場面が映画版でも終盤に登場しており、構成される要素を絞り切った成果物としてTV版が作られていると感じます。
TV版の最後の方でベンが「2か月に1回くらいビニールハウスを燃やしています」と語るところはそれだけではなんのことだか分からず、ヘミが失踪に至るまでの断片を提示したのみで終わってしまうのですが、「煙のように消えたい」と話すヘミの神秘性とそれに関わる二人の男の絡み合いだけでも、ドラマとして一応成り立っていることも確かだと思いました。
映画版の後半でジョンスがヘミの失踪の真相を追う展開はもちろん物語を先に進める内容なのですが、目指すところは、失踪のその先も描くことで、「バーニング」と題したこの物語の核心を描いているということだと思います。
提示された断片が繋ぎ合わされ、物語の全体像が顕わになったときの驚きは、この静かな作品からは想像できない大きな感興を掻き立てられました。
そういうわけでTV版を鑑賞された方も、未見の方も、ぜひ劇場でこの独特の世界を体験して頂きたいと思います。
【2019.3.22追記】
本稿をUPした後に村上春樹の「納屋を焼く」を読みました。
TV版は原作の物語に準拠し、原作と同じところで終了する形となっていることが分かりました。
「劇場版」では原作にない「その後」を描くことで、イ・チャンドンの作品解釈を映像化したものということになるのだろうと思います。
TV版に収録されている部分にも劇場版の解釈のヒントとなる映像が含まれており、原作準拠のTV版においても物語の「その後」が示唆されている点は監督の作品解釈への明確な回答なのだといえるでしょう。
TV版を観ただけで劇場版の結末を導き出すことはまず不可能なので、やはり、「劇場版」こそが、監督の意図する本作の完成型なのだと再認識しました。
『バーニング 劇場版』
HP
http://burning-movie.jp/
3/16(土)~3/29(金) 連日①12:15 ②19:05