ソ連の伝説的バレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフの亡命に至る半生記。
『愛と哀しみのボレロ』のモデルのひとりであり、ニジンスキーの再来と言われたヌレエフの亡命は1961年という冷戦の最も厳しい時期ということもあり、センセーショナルな事件として語り継がれてきました。
映画は幼少期をシネスコサイズで色調を抑えたモノトーン、青年期を古いフィルムっぽい色調のビスタサイズで表現しています。
青年期では亡命に至るキーロフバレエ団のフランス公演とそれ以前の描写が交錯し、亡命に至るまでのヌレエフの人となりが丹念に描かれ、類まれな才能とそのパーソナリティがどのように形成されていったのか窺い知ることができます。
ソ連を一回も出たことのなかったヌレエフがフランス公演中に体験した西側世界のさまざまな事象がヌレエフにどれほど影響を与えたか、また、ソ連という体制が異能のダンサーにとってどれほどの足かせとなっていたのかを丁寧に描いていきます。
ヌレエフにとって亡命はその直前までは当人にも予想外の出来事であり、突如としてそこに追い込まれた動揺が異様な緊張感をもって描かれており、それまでの抑え込まれた表現から一転して緊張の高まる描写はこの映画のヤマ場。亡命に至るまでの心の動きがヌレエフ自身になったような感覚で体験できます。
ヌレエフ役のオレグ・イヴェンコはタタール劇場の現役プリンシパルとのことで、そのバレエシーンはまさに本物の見事さ、傲慢で自己中心的な性格ながらバレエに対するピュアな想いが伝わる演技は俳優として既に充分な才能を感じます。
ヌレエフの同室のダンサー役として、もはや伝説的バレエダンサーであるセルゲイ・ポルーニンも出演していますが、こちらは意外にもバレエのシーンはほぼ無し。しかし、撮影中にイヴェンコにさまざまな与えアドバイスを伝えるなど、二人の共演は大変有意義なものであったようです。
ヌレエフの教師であるプーシキン役を今回監督を務めるレイフ・ファインズ自身が演じていますが、生粋の英国人でありながらセリフはすべてロシア語。
ロシアを舞台とした映画でも登場人物がすべて英語を話す作品も多いなかで、本作では多国籍の登場人物のすべてが母国語を話しており、その真摯な姿勢に好感が持てました。
今回監督に専念したいということで、プロデューサーに強引に説得されての出演とのことでしたが、抑えた演技の中にも指導者として確固としたバレエ像をヌレエフに伝える姿勢は映画に確かな深みを与えていて印象深いものがありました。
また、テーマ曲はジョージア出身のヴァイオリニスト、リサ・バティアシュヴィリが演奏しており、エンディングでも大変美しい演奏を堪能できます。
『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』
6/8(土)~6/14(金)連日①14:10 ②18:50
6/15(土)~6/21(金)連日①10:00 ②18:50
http://www.white-crow.jp/
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Posted by サールナートホール 静岡シネ・ギャラリー at
16:50