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静岡市葵区御幸町にある、文化施設のサールナートホールです。 三階には、静岡シネ・ギャラリーも併設しています。 いろいろな催し物、映画を上映しています。

ラウペ

『ワイルドライフ』壊れゆく家族の姿を14歳の息子の心情を通して描く、切なくも優しい物語

1960年頃のモンタナ州の田舎町。ゴルフ場でコーチの職にありついた父は些細なことで解雇され、復職のチャンスも蹴って大規模な山火事を消火する仕事に赴くことにした。元教師だった母は専業主婦となっていたが、パートの仕事に就くことに。それまで仲の良かった夫婦仲に亀裂が入り、母は街の成金と浮気をするようになる・・・

壊れていく夫婦の関係を14歳の息子の目線を通して描く本作は、『スイス・アーミーマン』で主演のポール・ダノ初監督作とのこと。
しっとりとした映像に登場人物の心の機微を丁寧に描くこの作品が初監督とは思えない良作。

父役のジェイク・ギレンホールは問題が降りかかるちょっと難しい系の人を演じたらこれ以上の適役はないほどの定番俳優ですが、少し頑固でプライドも高い理想家肌の父を実に味わい深く演じています。
しかし、今回どちらかというと困った系の人は父ではなく母の方。
最初は内助の功的なつつましい母だったのが、父の解雇を機に少しずつ自我に目覚めていく様子は、息子でなくても観る方も不安になっていきます。
母の素性はむしろ昔はそういう性格だったのかも?と思わせるところがあり、髪形や服装が徐々に変化していくなかで、キャリー・マリガンのさっと表情が変わる様子が大変印象に残りました。

『ワイルドライフ』壊れゆく家族の姿を14歳の息子の心情を通して描く、切なくも優しい物語

14歳という多感な時期に両親の不仲、とりわけ母親の不倫に直面することの辛さは想像に難くないところですが、親たちの関係がどんどん悪化していく様子をただ眺めるしかない息子は非常に難しい役どころ。
大きく表情を変えることなく、不安や悲しみを表現できるエド・オクセンボールドの演技は大変素晴らしいと思います。
完璧と思える1960年代のノスタルジー溢れる景色やクルマの佇まいが、なお一層少年の成長物語の味わい深い雰囲気を醸成していると思いました。

『ワイルドライフ』壊れゆく家族の姿を14歳の息子の心情を通して描く、切なくも優しい物語

印象的で透き通るようなモンタナの空気感を感じる音楽は『グランド・フィナーレ』でやはり同じような印象的な音楽を書いていたデヴィッド・ラング。
クレジットの最後に監督と親交のあったらしいヨハン・ヨハンソンへの献辞が出ています。
使用曲の一部はヨハン・ヨハンソンのもののようです。

写真館でバイトをはじめた息子が事実を受け止め、彼なりの成長を窺わせる締め括りは美しいモンタナの景色とともに静かで深い余韻を残すのです。
ポール・ダノ、監督としての今後の仕事が今から楽しみになってきました。




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Posted by サールナートホール 静岡シネ・ギャラリー at 15:07

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