映画上映情報 ラウペ

ドイツ軍占領下のガーンジー島で島民の密かな親睦の場として読書会があったことを知った作家のジュリエットは、読書会の不思議な名前と本の取り持つ縁に惹かれて現地に行ってみると、そこには主催の女性の失踪に絡む秘密があった・・・



ガーンジー島と聞いてピンと来なくても、チャンネル諸島と言えばピンと来る人は多いはず。
チャンネル諸島は英国領（王室の属領）とはいえ、地理的には本土より圧倒的にフランスのノルマンディ地方に近く、開戦直後にドイツに占領されて以来、大陸反攻作戦にも取り残され、終戦まで占領が続いたことで、島の要塞化、ユダヤ人や政治犯の強制収容所への移送、補給の欠乏による食糧難や病気の蔓延等々・・・殊更厳しい辛酸を舐めてきた歴史があったのでした。
観る前から読書会の秘密がドイツ軍の占領に起因する悲劇なのではないかと推察される展開なわけですが、物語ははじめにジュリエットが島民から手紙を受け取り、読書会に興味を示す様子やロンドンでのアメリカ軍人の富豪の恋人の登場など、英国映画らしい丁寧な物語運びで、少しずつ物語が進行していきます。
ジュリエットが読書会のメンバーと打ち解けたのも束の間、読書会のことを記事にしたいと話すと、明確な拒否に遭ってしまいます。
それぞれに個性的な読書会のメンバーが抱える心の傷が少しずつ明かされ、玉ねぎの皮が剥けるように謎が少しずつ正体を現していく過程は観ていて心地よく、それがやはり島の占領に纏わる悲劇のひとつであるらしいことが明らかになっていきます。



物語の主軸はメンバーが内緒にしている秘密にあるのですが、この作品全体に溢れるのは本を読むことに対する限りない愛情。
そこには読書を通して親睦を深めるという目的があったにしても、読書がもたらす心の潤いが、どれだけ大きな支えとなりうるのかが、はっきりと伝わってきます。
このあたりの本に対する慈しみの雰囲気は『マイ・ブックショップ』と大いに共通するところだと思います。

また、なんといっても主役のリリー・ジェームズのチャーミングな魅力。
こういうちょっとクラシックな雰囲気のヒロインにこれほど適役な人は居ないと断言しちゃいたい。
読書会のメンバーとの交流が深まるうち、自分自身を見つめ直す契機となっていくところ、彼女の眼の演技にご注目。

観終わってほっこりする気分に浸れるのと同時に、家に帰ったら本を読まなきゃ、という気持ちにさせてくれる、そんな映画です。