2020年01月25日
| 映画上映情報| ラウペ
第一次大戦終了後のフランス。フランス最高位の勲章であるレジオンドヌール勲章を授与された英雄が、故郷の式典で犬に勲章を授けたことで国家への侮辱の罪で投獄された。軍法会議に掛けるべきか判断するため、引退間近な軍判事が留置場を訪れる。留置場の前には収監された飼い主を待つ犬が吠え続けるのだった・・・
誌的な雰囲気を漂わす予告の印象は抜群で、犬の様子に一目惚れ。
この犬はドーベルマンの原種でフランス原産のボースロンとのこと。出演しているのは2016年度の「フランスで最も美しい犬」に選ばれたイェーガー君。
戦場で何があったのか、主人と犬の感動的エピソードが明らかにされる・・・と思いきや、映画の内容は当初のイメージとはちょっと異なります。
主人公は出征前に読書好きな女性と付き合いはじめます。犬の本当の主人は彼女。
彼女と出会ってからは読書に励み、出征を機に世の中に対する独自の見識を持つようになります。主人公に懐いた犬は戦地まで帯同し、想像を超えた凄惨な状況に遭遇することになるのでした。
さまざまな要素が絡み合い、復員後に彼は犬に勲章を授与するという行為に出るのですが、その真相を究明する過程で、軍判事は彼が戦地で予想もしていなかった体験を経ていたことを知るのです。
彼と犬との関わり、なぜ勲章を犬に与えたのか、その真相には、彼の個人的な体験や不器用な性格の他に、第一次大戦末の世界の大きなうねりと密接に関わる、切実な事情があったのでした。
戦争を遂行するために国家が兵士に勲章を授与するという行為に対する痛烈な批判と、それによって報われるはずもない戦争による痛みの計り知れなさ、僅かな希望が打ち砕かれたときの絶望感、愛情だけではない犬に対する複雑な想い・・・その混然一体となった感情が一気に押し寄せ、一見他愛もない衝動に見える行為の奥に潜む魂の叫びを感じずには居られなくなるのでした。
主人公の体験した心情の、パーソナルではない、コスモポリタン的思想に基づく部分は当時の一般的な時代感覚よりもかなり現代的といえるものですが、ロシア革命を端緒とする第一次大戦終結後の時代の空気を体現したものだったのでしょう。
やはりこの作品の根底にあるのは痛烈な戦争批判の精神だと思います。
戦争の非人道的な面を理解しているはずの人間よりも犬の方が国家の意志に忠実であった、という皮肉は観終わったあとも長く尾を引くことになるのでした。
全てが明らかになったあとに、比較的コンパクトに収められたエンディングは、男の胸に去来する心情を思い測るのに相応しいものだったと思います。
Posted by サールナートホール 静岡シネ・ギャラリー at
12:55