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静岡市葵区御幸町にある、文化施設のサールナートホールです。 三階には、静岡シネ・ギャラリーも併設しています。 いろいろな催し物、映画を上映しています。

映画上映情報 ラウペ

事実に基づく物語 『2人のローマ教皇』

2012年、アルゼンチンのベルゴリオ枢機卿(ジョナサン・プライス)は、カトリック教会の現状に不満を抱く立場からローマ教皇のベネディクト16世(アンソニー・ホプキンス)に辞意を申し入れるために教皇の別荘であるガンドルフォ城を訪れる。カトリックの伝統と権威を重んじるベネディクト16世と変革を求めるベルゴリオ枢機卿は水と油で、二人の会談はその立場の違いを際立たせるものだった・・・
事実に基づく物語 『2人のローマ教皇』

基本的に二人の聖職者が互いの意見をぶつけ合う対話劇なのですが、さまざまなテーマに知的好奇心を刺激され、大変に美しい映像とともに125分の上映時間があっという間に過ぎていきます。

簡易な服装で教皇を訪ねようとしたベルゴリオ枢機卿は「教皇はその地位に相応しい服装がお好みです」と出迎えの職員に言われ、道の途中で慌てて着替えることに。会談の途中で靴が正装でないことが知れて顔をしかめる教皇。
会話の中身も二人の立場は大きく異なり、特に当時社会問題になっていた聖職者による未成年者への性的虐待(『スポットライト 世紀のスクープ』で描かれたあの事件)への対応については二人には大きな隔たりがあり、ベルゴリオ枢機卿の辞任を認めることはそれ自体がカトリック教会への反対と捉えられるとの立場から、辞表へのサインを拒み続けます。
この対話はカトリック教会の在り方という教会内部の問題に留まらず、宗教が新しい時代の価値観の変化に対してどう対応していくのかという問題や、神という存在についての根源的な考え方、といったさまざま問題が短い時間のうちに採り上げられ、それぞれの意見の違いを聞くことは一種の思考実験的な面白さを堪能できます。
折り合わない二人は夕食を別に採り、夜にまた対話を続けるのですが、二人の音楽などの趣味の違いや、知識の違いが浮き彫りとなります。
事実に基づく物語 『2人のローマ教皇』

また、会話の途中でベルゴリオ枢機卿が神父となった経緯や祖国アルゼンチンでの軍政時代の経験から改革派にシフトしていく理由が明らかになっていきます。その経緯は『ローマ法王になる日まで』をご覧になられた方はよくご存じのことと思います。
庶民派として知られるベルゴリオ枢機卿ですが、軍政時代にイエズス会のアルゼンチン管区長だったことへの責任問題は、その関与の有無よりも聖職者としてなすべきことをなしたのか?という非常にシビアでセンシティブな問題を問う内容で、これまた映画を観ながらその是非について脳味噌をフル回転させることになるのです。

翌朝バチカンに急遽戻ることになった教皇はベルゴリオ枢機卿に同行を求め、更に対話を続けることになるのですが、そのなかでベネディクト16世が抱える問題の最も根源的な理由が明かされるのでした。
教会の行く末、宗教が人々になすべき課題、果ては(またしても、というべきか)「神の沈黙」という宗教の根源的な課題についての対話・・・お互いの立場の違いを認めつつも、二人の聖人が大局的な理解と友情を確認するに至る過程がこの映画のヤマ場。
ベネディクト16世の苦悩が明かされたことでベルゴリオ枢機卿のとる対応は、一般人のそれとは違い、まさに聖職者ならでは。その様子を観ることで、宗教家が本来あるべき姿勢、最高位権威に就くものに求められる資質の一端を垣間見ることができるのでした。

事実に照らすと、二人が面会したのは2013年のことで、ベルゴリオ枢機卿がフランシスコ教皇に就任した後だったこと、両者が共にTVを見るエピソードはなかった、とのこと。
なので、この作品は立場の大きく異なる両者が面会して議論をしたらどうなるだろうか?という仮定をドラマ化したものなのですが、あたかも本当に二人が会話をしているかのようなリアリティと奥深さ、テーマの多彩さの際立つ作品となったと思います。
ジョナサン・プライスとアンソニー・ホプキンスは本年のアカデミー賞での主演男優賞と助演男優賞にノミネートされ、分別ある聖職者の抑制された中での丁々発止のやりとりと、時に思わぬ感情の吐露を見せる場面など、観る者を圧倒する演技でこの作品を一段高いところに押し上げていたと思います。




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 【重要】2021/8/14(日)『映画:フィッシュマンズ』18:30の回、上映時間変更のお知らせ (2021-08-07 15:24)

Posted by サールナートホール 静岡シネ・ギャラリー at 10:46

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