2019年に開校から100周年を迎え、バウハウスに関連するドキュメンタリー映画6本を4プログラムで上映する特集の第2週目。
プログラムC
『ミース・オン・シーン』
バウハウス第3代校長を務めたミース・ファン・デル・ローエが1929年のバルセロナ万博でのドイツのレセプションホールとして建設した「バルセロナ・パビリオン」を巡るドキュメンタリー。
モダニズム建築の最高傑作のひとつとして知られる「バルセロナ・パビリオン」はレセプションホールとしての性格上これ以上省略する部分のないほどに単純化された(ある意味では床の間だけで出来た家、といったところ)石と鉄、ガラス張りの平屋の建物で、1929年という時期を考慮に入れなくてもまったく古さを感じない美しい佇まい。
グロピウスから連なるバウハウスのシンプルで機能的なデザインのひとつの到達点を思わせます。
ファン・デル・ローエが設計するにあたり、空間や素材などあらゆる部分に配慮を巡らし、「神は細部に宿る」の言葉通りの完璧な仕事をしていたことが窺われます。
また、1929年というフランコ登場直前のスペインの空気、ナチス台頭著しいドイツの絶妙な時代背景がこの奇蹟の建物を誕生させたことに歴史の偶然を思い知るのです。
1986年の復元の様子も映し出され、その間にフランコ独裁時代のスペインの人々の苦悩があったことを想うと、ファシズムの嵐を挟んでこの建物が同地に復元されたことは大いに意味のあることだと思われました。
『ファグス―グロピウスと近代建築の胎動』
グロピウスがバウハウスを開校する8年前の1911年から建設が開始されたファグス靴型工場を紹介するドキュメンタリー。
コンクリートと開口部の大きな窓にシンプルな外観を持つ建物は紛れもなくモダニズム建築の原型を思わせます。
創業者のベンシャイトの理想とする「労働者のための宮殿」はそのままバウハウスの理念に直結するコンセプトで、グロピウスとマイヤーの手による工場は労働環境としての細やかな配慮の上に設計されていることが分かります。
グロピウスが設計するにあたり20世紀初頭のアメリカの工場の写真を集めた、とのエピソードは単なるドイツ的合理主義だけではないグローバルな視点のもとに機能的な建物の設計が行われ、結果的にバウハウスがドイツの芸術学校という枠内には収まらないところに立脚点があった、ということを知ることができるのでした。
世界遺産に登録され、現在も操業を続ける工場の外観は、シンプルな中にもどこか人の手になる温かみを感じるもので、「労働者のための宮殿」をまさに体現していると思いました。
プログラムD
『マックス・ビル―絶対的な視点』
バウハウス最後の巨匠といわれるマックス・ビルの生涯を追うドキュメンタリー。
破天荒な少年時代、厳格な父との難しい関係を経てバウハウスに入学したマックス・ビルはその多彩な活躍と同時に政治活動にも積極的に参加し、国会議員まで務めていたことはこの映画で初めて知りました。
バウハウス入学後は同郷のスイス出身ということで教授のパウル・クレーと親しくなったとのことで、紹介される初期の絵画がクレーの作品に酷似していることは非常に興味深いものがありました。
バウハウス閉校後はスイスに戻り、反ナチス活動の支援を行ったとのこと。
当時のスイスのナチスに対する微妙な忖度が窺われ、その中でも抑圧体制に対するマックス・ビルの姿勢のブレないところには、戦後のさまざまな活動での姿勢に通じる部分を感じるのでした。
映画は主に屋外のオブジェを中心としたコンクリートアートの紹介の比重が多いのですが、インダストリアルデザイン(彼のデザインしたユンハンスの時計は現在でも販売されている定番)やタイポグラフィなどでのさまざまな活動にも焦点が当てられているとその多才ぶりをより俯瞰することができたのではないか、と感じました。
彼の二人目の婦人のアンゲラは自宅を彼のメモリアルアーカイブとして保存しており、そのインタビューは戦後から晩年に至る彼の活動について興味深いエピソードに溢れ、その人柄や業績についてより詳しく知ることができるのでした。
現代においてもさまざまな分野に多大な影響を及ぼしているバウハウスをさまざまなテーマから描くバウハウス100年映画祭。
後半のプログラムC・Dは7月2日までの上映です。
バウハウス映画祭
プログラムC
『ミース・オン・シーン』
『ファグス―グロピウスと近代建築の胎動』
2本同時上映
2020/6/26(金)~7/2(木)
1週間限定上映
①12:10~13:40
プログラムD
『マックス・ビル―絶対的な視点』
2020/6/26(金)~7/2(木)
1週間限定上映
①13:50~15:30