2020年12月29日
| 映画上映情報| ラウペ
ニューヨークに住む12歳のエイブは料理が趣味。父はパレスチナ人、母はイスラエル人ということで、親戚が集まると必ず争いが起きるのが悩みの種。子供向けの料理教室に通わされることになって、そこをこっそり抜け出したエイブはブラジル人の「フュージョン料理」をつくるチコと出会う。
パレスチナ・ミーツ・イスラエルの映画は『オマールの壁』『テルアビブ・オン・ファイア』のように世界で最も根深い対立をさまざまなシチュエーションで表現してきたわけですが、本作ではその争いは家庭内に持ち込まれます。
父と母は結婚に際し無宗教という選択をしたのでしたが、親戚はそうはいかず、エイブ(=エイブラハム)のこともそれぞれ「アブラハム」「イブラヒム」と呼んでユダヤ人かパレスチナ人らしく育てようとする。
エイブは誕生日に双方の儀式に興味を持つが、親戚同士の対立の火種となってしまうばかりか、無宗教となったはずの両親も根っこはそれぞれの民族の出自に影響されていることが露呈する。
双方の文化的差異が顕わになる前半の展開はなかなか興味深く、子供目線の物語と思いきや、思いのほか対立の根っこは深刻な問題であり、扱うテーマは想像以上に大きいことが明らかになります。
エイブはチコと出会い、シェフの下働きとして本格的に料理の実地体験を踏んでいくのですが、チコの料理が異文化同士の料理をミックスしたフュージョン料理であることがミソ。
食材を料理番組のように美しく撮り、フレッシュなシズル感を演出することで食べ物に対する一種本能的な肯定感を喚起してきます。
美味しそうなものは誰にとっても美味しい、ごくあたりまえのことが人には大切なのだと気付くのでした。
エイブはイスラエルとパレスチナの料理をミックスしたフュージョン料理を作って親戚同士を仲直りさせようとする・・・のですが、やはりというか、これがなかなか上手くいかない。
劇中エイブがネットで見つける「フィガロの結婚」序曲で指揮者のダニエル・バレンボイムが大写しとなるところがありますが、演奏しているオケはウェスト=イースタン・ディヴァン・オーケストラ。
バレンボイムが主催し、イスラエルとアラブ系の若年演奏家で構成する同オケが登場するところの意味は言わずもがな、というところでしょう。
ひと悶着あっての展開は、宗教や文化を背景とした対立は根が深いという大きな現実を前にして、双方の融和にはお互いの違いを認め合い、相互に理解し合うことが大切だという、人としてごくあたりまえの解決策だけが、その成功のカギを握っているのだ、ということに気付かされるのでした。
『エイブのキッチンストーリー』
2020/12/25(金)~2021/1/7(木)迄
2020/12/25(金)~12/31(木)
①10:15~11:45
②16:00~17:30
2021/1/1(金)~1/7(木)
①10:15~11:45 (※2021/1/1のみ①の回休映)
②17:50~19:20
Posted by サールナートホール 静岡シネ・ギャラリー at
16:15