独立して2年ほどのフォトグラファー小山田(金子大地)は編集者の嵩村にポートフォリオを見せると「何が撮りたいのか分からない」と酷評される。ところが嵩村は思い出したように読者モデルの撮影仕事を小山田に紹介することにした。待ち合わせ場所に現れたのは駆け出しモデルの田中ユカ(石川瑠華)だった・・・
ポスターや予告の印象からはよくある恋愛もののように見えますが、さに非ず。
ある意味では激辛のトラウマ映画。
最初の撮影で二人が出会い、次第に仲良くなっていく様子は若い男女の恋愛ものの定番スタイル。
物語があるところまで到達すると、映画は二人が出逢う前のユカの物語を描いていきます。
タレントの養成学校に通い、モデルになるべく努力を重ねるユカだったが、そこにはやはり簡単ではない困難が待ち受ける。
モデルになるために、ユカはイヤなことも受け入れていくが・・・
物語が動き始めてから先のことは何も知らない方が良いので、具体的なことには触れませんが、小山田が出会ったユカは小山田の知らない沢山の秘密を抱えており、精神的にも非常に危ういところにあることが明らかになっていきます。
モデルとして成功するためには本来の自分の姿を虚飾で包み込み、自分の理想とする姿を自分に合わせようと無理を強いられるものだということがユカの体験から窺われます。
人に知られたくない秘密を隠すためにウソを重ね、本当の自分と次第に乖離が大きくなっていく。
好きな人には自分の美しい部分以外は見せたくない、必然的にウソをつくことにハードルが低くなっていく様子は見ていて非常に辛い。
またユカに秘密があることに薄々気付いていく小山田は、ユカの秘密が何なのか、どうしても知りたくなっていく。
相手のスマホを覗きたくなる心理はこうした状況では必然だと思いますが、それを実行することで得られる“真実”がもたらす悲劇は、それを知らずに済んでいた方が幸せに過ごせたのではないか?というジレンマに直結するのです。
誰もが人には知られたくない秘密のひとつや二つはあるのではないかと思いますが、それを知らずに済ませることの「思いやり」や「度量」を備えることはやはりなかなか難しいことだと思います。
人の本音や欲望が顕わになって、生傷に塩を塗り込む痛みを体感しなければならないこの映画は、当初のイメージとは違い、相応の覚悟が必要です。
ただ、間違いなく胸の奥底に“刺さる”映画だといえるでしょう。
石川瑠華という女優は本格的な演技は本作が初めてとのことですが、良い意味で場数を踏んでいないことの初々しさや度胸の良さが前面に押し出され、圧倒的な存在感を放っていました。
シネギャラリーでも上映予定の『うみべの女の子』でも主役を演じています。
まず本作でその実力の程をご確認いただければと思います。
『猿楽町で会いましょう』
2021/7/9(金)~7/22(木)上映
2021/7/9(金)~7/15(木)上映
①14:50~16:55
②19:15~21:20
2021/7/16(金)~7/22(木)上映
①13:25~15:30
②19:30~21:35