こんにちは。みのりです。
さて、前回・前々回と6月24日(日)開催の
『活動弁士とキネマの世界』についてご紹介してきました。
活動弁士とキネマの世界(1) 「活動弁士」って知っていますか?
活動弁士とキネマの世界(2) 「寄らば斬るゾ!特選時代劇」
今回のブログで紹介するのは、午後13:30からのBプログラム
「世界三大喜劇王!!」。
このプログラムでは、世界の三大喜劇王、その三者三様の作風の違いを楽しんでもらいます
三大喜劇王とは、
チャールズ・チャップリン、
ハロルド・ロイド、そして
バスター・キートンの三人のこと。
彼らはサイレント映画時代の寵児、
圧倒的な実力と人気を兼ね備えた、コメディの達人たちです
サイレント映画時代は、ある意味ではシリアスな役者よりも、コメディアンに高いハードルが課せられていました。
なにしろ、コメディなのに文字通り
「おもしろいことが言えない」状況なのですから。
無言で深刻な演技はできても、無言で笑わせる演技って…大変そうですよね
そんなハードルをクリアするため、三大喜劇王たちはそれぞれに、そこにいるだけで笑いを生む、独自の
「キャラクター」を編み出しました。
たとえば、チャップリンのキャラクター
「The little tramp(小さな放浪者)」はお馴染みですよね
ドタ靴と山高帽、手にはステッキ。小さすぎる上着と、大きすぎるズボン。チョビ髭をたくわえた顔は、常にちょっと驚いたような、困ったような、なんとも言えない表情です。
観客は一見してすぐに、「あ、チャップリンだ。これからきっと面白いことを始めるぞ」と期待に胸を膨らませます。
それが
「キャラクター」の力です
チャップリンの生み出した「小さな放浪者」はあまりにもハマり役・当たり役なので、もはやチャップリン自身とキャラクターの区別ができないくらい。
だって「私服で普通に次の映画の打ち合わせをするチャップリン」なんて…想像つきませんよね
さらにチャップリンは
パントマイムの名手でもありました。
もちろんサイレント期の演技はある意味すべてパントマイムなのですが、チャップリンの場合は、マイムでキャラクターの心情を表現することにとりわけ秀でていたのです。
中期から後期にかけての彼の作風は、そんな長所を生かすように、笑いの中にもあたたかな人間賛歌や、人間らしさを否定する現代社会への批判が盛り込まれています。
…いや、それは正しい表現ではないですね。
長所のマイムを生かすために人間賛歌を謳ったのではなく、本当に
深い人間愛や
愛に基づく怒りが心にあったからこそ、チャップリンのパントマイムはいつだって特別なのです。
今回上映する
『チャップリンの冒険』は、チャップリンが純粋に笑いを追求していた、そして後に「一番幸福な時代だった」と回想している、ミューチュアル・フィルム時代最後の作品(チャップリンは何度も所属会社を移っています)。
この時点ですでに、彼一流のあたたかな世界観は映画全体を支配しています。
活動弁士・坂本頼光さんは、そこにどんな声色を重ねてくれるのでしょうか。
楽しみですね
ちなみに、『チャップリンの冒険』に登場する日本人は、チャップリンの専属運転手/付き人の
高野虎市。
チャップリンは、自分の使用人を全員日本人にしてしまうくらい彼のことを評価していて、この映画にも出演させたそうです。
(ただ、高野虎市の奥さんは「役者業なんてみっともないことして…」と難色を示したそうで、当時の感覚がうかがい知れますね
)
さてさて、二本目の作品
『豪勇ロイド』主演のハロルド・ロイドは、三大喜劇王の中では一番マイナーな存在で、
「第三の男」と言えるかもしれません。
彼のキャラクターはカンカン帽に丸ぶち眼鏡が特徴。
「ロイド眼鏡」と呼ばれるタイプの眼鏡がありますが、彼の名前が由来です。
ロイドのキャラクターの長所であり短所は、
「普通の好青年」であること。
多くのアメリカの観客にとっては、イギリス出身で意図的に社会的弱者を演じるチャップリンや、近寄りがたい雰囲気のあるキートンよりも、
「普通の」ハロルド・ロイドこそが、感情移入できるキャラクターでした
実際、当時の人気ではロイドはキートンを上回っているのです。
また、主演・監督・原案を兼ねて作品に自分のカラーを強烈に打ち出す他のふたりに対して、
ロイド作品はハル・ローチ(制作・原作)、サム・テイラー(原作)、フレッド・ニューメイヤー(監督)といった仲間たちとの、
水も漏らさぬ鉄壁のチームワークで生み出されています。
チャップリンやキートンに対抗する強烈なキャラクターを無理してつくるのではなく、作品のクオリティを上げるためなら、自分は一歩下がってチームプレー。
偉大なる凡人ハロルド・ロイド。
実はとても知的で余裕のある人だったのだと思います
きっと日本独特の活動弁士というスタイルも、すんなり受け止めてくれることでしょう。
最後の作品は
『キートンのセブン・チャンス』。
バスター・キートンのキャラクターと作風は現在でも通用するくらいモダンで洒落ている上に、人間の本質を鋭く突いているので、多くの俳優やクリエイターのリスペクトを受けています。
例えば
ジョニー・デップの演技なんて、かなりはっきりとキートンの影響を受けているように思えます。
「ストーン・フェイス」とか「凍りついた顔」なんてニックネームをつけられた通り、キートンのキャラクターは作中
絶対に表情を変えません。
彼は映画の中で、転がる巨岩に追われたり、爆走する機関車に翻弄されたり…これでもかというくらいにトラブル続き
そしてそんなトラブルをくぐり抜けるために行われる、信じられないようなアクション
(スタントマン無し。特撮もCGも当然無し。危険過ぎて今なら撮影許可自体下りないような気がします
)
でもとにかく、どんなトラブルに見舞われても、どんなアクションをこなしても、キートンはどこまでもスマートで
無表情。
ひたすら
無表情。
…ところが、観ているうちにだんだんと、彼がロボットのように
何も感じないから無表情なわけではないということが伝わって来ます。
逆に人一倍見栄っ張りで、他人の目を気にする臆病者なので、困っている姿をさらしたくないのです。
それで、どう考えても
ありえないような異常事態に巻き込まれているのに、「いえ、別に大したことではないので気にしないで」と必要以上に無表情に、不自然なくらいスマートに、
自分自身を演じてしまう。
そこがジワジワと笑いを誘うのです。
だって、
大小1500個の岩に追われて死にかけながら無表情って…逆におかしいですよね
目立たないようにすればするほど悪目立ちしてしまう男、バスター・キートン。
坂本頼光さんは、はたしてどんな活弁でキートンを演出するのか。要注目です
以上、6月24日(日)13:30から上映の
Bプログラム≪世界三大喜劇王!!≫のご紹介でした。
三大喜劇王の三者三様のキャラクター、そして作品ごとの坂本頼光さんの活弁を、存分に堪能してください