1959年の英国。保守的な気風の田舎で戦争未亡人のフローレンス(エミリー・モーティマー)は夫の意思を継ぎ、小さな本屋を開業しようとするが・・・
本作はブッカー賞受賞の作家ペネロピ・フィッツジェラルドの「The Bookshop」(1978)が原作。「The Bookshop」はブッカー賞の受賞はならなかったものの、最終候補までは残りました。
事前の印象では田舎町で逆境に耐え、本屋の経営を続ける苦労話・・・のように思えますが、実際はちょっと違います。
どこでも田舎はそういうところがあるのかもしれませんが、住民はゴシップが大好きで、有力者の言うことになかなか逆らえない、という閉鎖性がストーリーの大きなウェイトを占めます。
この映画には良い人はごく一部を除いて殆ど出てきません。
フローレンスにさまざまな手を使って嫌がらせをする有力者の婦人をはじめ、銀行の融資担当者、顧問弁護士、通りすがりのご婦人、フローレンスに言い寄る男・・・ちょっとしか登場しない人や、思いもよらぬ人物までが書店経営の邪魔をしてきます。
唯一の理解者は40年間引き籠り状態の老紳士と店のお手伝いに来る女の子だけ。
老紳士役のビル・ナイが、人付き合いが苦手ながら的確な人間観察と毅然とした正義感の滲む人物像を好演していて、お手伝いの女の子もまだ小さいながらおしゃまな感じでフローレンスだけでなく観る側もこの息苦しい物語の中での心の拠り所となります。
物語の途中でナボコフの「ロリータ」、レイ・ブラッドベリの「華氏451度」と、いかにも1950年代後半らしい2冊の本が登場しますが、とりわけ焚書をテーマとする「華氏451度」の登場は街の書店を守り抜くことのシンボルとしての意味が込められているのは明らかだと思います。
どんよりと曇った天気で肌寒い空気感が映像にも感じられ、さまざまな嫌がらせで書店の経営は思わしくなく、物語もだんだん重苦しくなっていきますが、こうしたテイストはいかにも英国風といったところ。
しかし、この物語の本当のテーマは、保守的な田舎の閉塞性や主人公の苦労を描くのではなく、劇中でも何度かセリフに登場する「courage」という言葉。
字幕では「勇気」と訳されていますが、ここでは猛獣と戦うときや戦場での「勇気」ではなく、逆境や理不尽な境遇に屈せずに闘い続ける、という意味での「勇気」という意味になるのだと思います。
物語は当初の想像と違い、バッドエンドっぽい方向に推移していくのですが、この「勇気」をどう続けるか?どう伝えるか?という、物語の核心が明らかになったときにどっと押し寄せる感興の高まりは、なるほど、これまたいかにも英国流の収め方なのだ、という気がしました。
重い話なのに、なにか温かいものが心に残る、不思議な印象を残す映画です。
『マイ・ブックショップ』
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