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静岡市葵区御幸町にある、文化施設のサールナートホールです。 三階には、静岡シネ・ギャラリーも併設しています。 いろいろな催し物、映画を上映しています。

ラウペ

アカデミー賞外国語映画賞ノミネート『判決、ふたつの希望』

第90回アカデミー賞外国語映画賞ノミネートのレバノン映画。
自動車修理工場を営むレバノン人のキリスト教徒の男がベランダの排水口から流した水が工事現場の現場監督を務めるパレスチナ難民の男に掛かったことから口論となり、暴行、裁判、そして国中を巻き込む騒動に発展していく・・・

アラファト議長率いるPLOがベイルートから退去したのが2000年、イスラエルの隣国として数十年に及ぶ内戦と侵略で荒廃したレバノンで、このような映画が作られるようになったことはまず大きな驚きです。
映画はキリスト教徒の男が「レバノン軍団」の集会から帰るところから始まり、1982年に暗殺されたバシール・ジェマイエルの肖像が掲げられ今なお神格化されている様子が映し出されます。この男が「レバノン軍団」の熱心な支持者ということで、レバノンのキリスト教徒でも筋金入りの右翼であることが分かります。
一方の現場監督のパレスチナ人は難民キャンプに住むことで警察も立ち入る権限を持たず(=外国人の居住区ということ)、レバノンに居住し職も得ながらレバノン人ではなく難民として扱われている微妙な立場が描かれます。
事件の背景にはキリスト教徒のレバノン人とパレスチナ人との埋めがたい溝があることが明らかになっていくのですが、アラブ人国家ながら国民の40%がキリスト教徒というレバノン特有の歴史に明るくない人には「黒い9月事件」だの「レバノン軍団」「バシール・ジェマイエル」「ダムールの虐殺」といった事件や人名(このあたりはパンフレットに解説が掲載されています)、シャロンの名前を使ってパレスチナ人を侮辱することがどれほど重大な意味を持つのか、といったことが分からないとこの二人の対立の根深さが把握しにくいのではないかと思います。
「バシール・ジェマイエル」の名前とアリエル・シャロンとの関係は1982年のイスラエルのレバノン侵攻と「サブラー・シャティーラ事件」でのイスラエル軍の関与について知っている必要があるのですが、「戦場でワルツを」を観たことのある人にはこの映画との関わりが理解できるものと思います。ちなみに映画の表題ともなった巨大なジェマイエルの肖像の前で機銃をぶっ放すイスラエル兵とショパンの7番のワルツが被るシーンはトラウマ級の印象深さです。
アカデミー賞外国語映画賞ノミネート『判決、ふたつの希望』

とはいえ、歴史的背景を知らなくても、この映画の旨とするテーマは、人類にとって普遍的な問題といえる民族対立と相互理解の壁についてのものであり、具体的実例を知っているかどうかはこの映画のテーマをどのように各自が考えるかという点に直接的に影響のあるものではありません。(「ケッセルランを12パーセクだぜ」と言われてなんのことだかわからなくても、ミレニアム・ファルコンが宇宙一速い宇宙船であることはその言葉で分かる、という感じでしょうか)
差別的な民族主義者対難民という対立構図は特に今のヨーロッパ全土で深刻さを増す重大問題であり、これに関連する各国の排外主義や通底するポピュリズムの問題はレバノンだけの問題でなく、国際社会全体に共通する古くて新しいテーマともいえるものです。
しかも、映画が進むうち、双方にはそれぞれにそうなるべき背景があることが明らかになり、当事者同士が抱える葛藤も浮き彫りになることで、登場人物が特別な人間ではなく、等身大の市井の人々のひとりであることが描かれ、物語としても大変見応えあるものになっていきます。
裁判の場面や争点となる法律は見慣れた日本や西欧諸国の法廷劇とは少し印象が違い、双方の弁護士の脱線気味の激しいやりとりが興味深いのですが、このことがこの事件のもつ多面性を強調する一助となっていて、よく練られた脚本の妙味を堪能することができます。
アカデミー賞外国語映画賞ノミネート『判決、ふたつの希望』

そうこうするうち、物語はひとつの結論に収まるわけですが、そこではこの問題の和解の糸口のようなものを垣間見ることができるのかな?と思います。
現実にはイスラエルとパレスチナの対立と不可分に関わる問題が簡単に解決できるわけではなく、双方の対立が根深く残っているレバノンでこのような民族対立をテーマとした直球勝負の映画が作られることは冒頭記したように大変驚きなのですが、そのこと自体が未来に繋がる希望といえるのではないでしょうか。
映画の終わりに見られるかすかな和解の糸口は監督や製作者の願いでもあるのでしょうが、観る者一人ひとりが真摯に受け止めるべき課題なのではないかと思います。

『判決、ふたつの希望』
9/29(土)~10/12(金)
連日①11:40 ②17:30
HP:http://longride.jp/insult/



(C)2017 TESSALIT PRODUCTIONS - ROUGE INTERNATIONAL - EZEKIEL FILMS - SCOPE PICTURES - DOURI FILMS
PHOTO (C) TESSALIT PRODUCTIONS - ROUGE INTERNATIONAL


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Posted by サールナートホール 静岡シネ・ギャラリー at 15:40

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