世界規模で著名人などの講演を主催するTEDカンファレンスに12年前北朝鮮から亡命してきたという男性が講演をはじめる。彼の話は北朝鮮の強制収容所での言語に絶する過酷な体験談だった・・・
ポリゴンを意図的に残した3Dアニメーションの映像は一見技術的な制約によるもののように見えますが、語られる壮絶な内容を表現する手段として慎重に選ばれた結果であるとのこと。
主人公のパク一家は日本からの帰還事業により平壌で暮らしていたが、あるとき父親が失踪、主人公のヨハンと妹のミヒ、そして母親のユリは強制収容所に連行される。
強制収容所の様子はまったくナチスの強制収容所と相似形。
到着するなり囚人の監視役に盲目的に従うことを強制され、「烈火のごとき滅私の奉仕によってのみ、偉大な祖国に対する諸君らの罪は赦される」と放送が流れる。
監視役は収容者の中から選ばれ、収容所の看守から労役の実務管理を任されている。ナチスの収容所の「ゾンダーコマンド」と同じ。
収容所に流れるスローガンが“Arbeit macht frei”(働けば自由になれる)と同義なのは言うまでもないところ。
そして収容者たちを定期的に集めて行わるのが密告の集会。
反党的・反国家的策動を見つけた者には褒美として食料が与えられ、密告された者はときには「完全統制区域(total control zone)」送りとなる。
「完全統制区域」とは何か?
それはあまりに恐ろしくてここに記すことはできません。
あまりに過酷な、想像を絶する非人間的扱い、更にはナチスの収容所のように終にはガス室で“処理”されることすらない、完璧なまでのこの世の地獄。
このポリゴンっぽさを残す3Dアニメで描かれる世界で、多少は過酷さがスポイルされるというのはなんとなく理解できるところ。
主人公のヨハンは孤児となったインスと友達となり、この収容所で大きくなっていくが、生き残るために次第に人間性を失い、監視役に接近していく・・・
物語はこの地獄のような状況をどこまで描くのか?という陰鬱な雰囲気に陥りながらも、絶望的な状況のなかでも人間性を失わない人の行いも描いていきます。
またその一方で、ヨハンたちのサバイバルゲームとしての物語の推移にも観るものを引き付ける吸引力があるのが一種の驚き。
特定の脱北者をモデルにしているのではなく、そこで行われている事実の積み重ねを紡いで物語としたことで、単純な事実の再現にはない物語性をも備えている、ということでしょう。
冒頭のTEDカンファレンスの場面がエピローグで戻ってくるとき、人々の自己犠牲の尊さ、希望を失わないことの大切さ、地の果てで未だに継続しているこの世の地獄で(収容者は現在でも約12万人と推定されるとのこと)、今なお苦しめられている人々のおかれた状況に思い至ることになるのでした。
『トゥルーノース』
2021/8/13(金)~8/19(木)まで上映
連日①16:05~17:40