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静岡市葵区御幸町にある、文化施設のサールナートホールです。 三階には、静岡シネ・ギャラリーも併設しています。 いろいろな催し物、映画を上映しています。

ラウペ

70年代中国。時代に翻弄された若者たちの美しく切ない青春『芳華-Youth-』

1970年代半ばの中国。人民解放軍の歌劇団“文工団(文芸工作団)”の男女を巡る年代記。

制作に人民解放軍の映画部門が加わり、内容的に中央政府の方針から外れることなく作られているのは確かだと思いますが、随所に人民解放軍への肯定的表現などがあるものの(それはある意味当然)、結論から先に言えば、そうしたプロパガンダ臭はまず気にならないと思います。

映画の登場人物は物語の語り手となる脇役の女性の他に主役の男女とその周辺の文工団のメンバーであり、行いが正しく評価されない若者がままならない生活を強いられながらもそれぞれの人生を懸命に生きる様子を描いています。
想いを寄せる相手が別の人物を好きであることが分かったり、相手の思いがけない行動に戸惑ったり・・・Youthという副題のとおり、どこの時代にもどこの国にもいる若者の恋模様を描いて一種のノスタルジーを感じながら、過ぎ去った人生の往時を偲ぶ、しっとりとした情感を掻き立てられます。
タイトルの『芳華』とは「花の香のように美しい(時代)」を指すとのことですが、やはり若い頃の想い出は誰にとっても甘く美しいものです。(遠い目・・・)

芳華1

興味深いのは、この映画が文革の最中から中越戦争、その後の社会主義市場経済の一端を窺わせるエピソードなど、微妙な問題も内包しつつ、1970年代後半から数十年に及ぶ中国の激動期を描いていることで、冒頭の毛沢東の肖像画の大写しから始まるオープニングから、中越戦争での劣勢を窺わせる激しい戦闘の様子、1990年代のエリート層と庶民の格差といった現実も描写されています。
軍の慰問団を題材にしていることから軍隊の登場する場面は多く、とりわけ稼働する旧ソ連製T-55戦車(または中国国産の69式戦車)が1970年代の仕様に忠実な姿で多数登場したり、なかなかに迫力のある中越戦争の場面など、ハリウッド製の本格的な戦争映画に匹敵する描写があったりします。
中越戦争の開始の場面ではベトナムに対する自衛的反撃戦云々のキャプションが入る辺り、さすがに中国当局の公式見解そのものといった表現があるものの、この映画の主題はそうした政治的プロパガンダとは違う方向のものであり、作品の鑑賞にブレーキとなる要素ではないと思います。

芳華2

美男美女しか登場しない映画であり、また歌と踊りの場面が大変美しく、誠実な人のあるべき姿を描いている、という点で、まさにそれこそが国家の理想とする人のありようを指し示す「国策映画」的側面があるのは確かだと思いますが、こうした道徳的な規範は体制の如何に関わらず、人の営みの中では普遍的な美しき姿であり、激動の中で物語の終わりにたどり着く主人公たちの人生には静かで大きな感動を覚えるのです。


『芳華-Youth-』
5/11(土)~5/24(金)連日①10:25 ②14:50
http://www.houka-youth.com/



(C)2017 Zhejiang Dongyang Mayla Media Co., Ltd Huayi Brothers
Pictures Limited IQiyi Motion Pictures(Beijing) Co., Ltd Beijing Sparkle Roll Media Corporation Beijing Jingxi Culture&Tourism Co., Ltd

タグ :芳華

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Posted by サールナートホール 静岡シネ・ギャラリー at 12:19

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