2019年09月17日
| 映画上映情報| ラウペ
デンマークで代々農園を営んでいる家のひとり息子アンダースは家業を継ぐことを良しとぜず、グリーンランドの小村でデンマーク語の教師として赴任する道を選んだ。実際に現地に行ってみると、過酷な環境と西欧文明の常識が通用しない習慣の違いに大いに戸惑うことになる・・・
登場人物すべてが本人を演じるという、ドキュメンタリーとドラマの中間的アプローチの映画ですが、主人公以外の村人は全てグリーンランドのイヌイットの人々であり、本人がありのままの姿を伝えるという意味でも、この手法は大いに理にかなったものだと思います。
主人公のアンダースは赴任の前の政府の担当者との面接の際に、グリーンランド語も学んでみたい、というのですが、担当者曰く「グリーンランド語を学ぶ必要はありません。彼らにはデンマーク語が必要で、グリーンランド語での会話はしなくて良い」という。
現地に行ってみると、クラスは学級崩壊同然の無秩序状態で、授業もまったくはかどらない。更に子供の多くが両親とは別居状態で、祖父母に育てられている子も多い、という。授業を1週間も休んでいる子供の家に行ってみると、祖父とともに犬ぞりで狩りに出かけた、という。祖母曰く、「必要なことは全て祖父が教える」とのこと。
西欧とはまったく異なるグリーンランドでの生活では学校での授業よりも狩りの仕方や、雪原での生存方法を学ぶことの方がより重要なのだ、というわけです。
西欧文明の伝道者的立場でデンマーク語を教えに来たアンダースにとっては、現地で初めて知る現実であり、酷寒の地で生きるイヌイットの生活習慣は西欧文明の常識とは違う価値観や生活があるのだという事実を徐々に受け入れるようになっていきます。
物語の中に少しずつ挿入されるイヌイットの生活場面。
その積み重ねのうちに、アンダースが現地での生活に馴染んでいく様子がごく自然に描かれます。
特に大きな物語的な起伏があるわけでなく、イヌイットの生活に馴染み、村人との距離を縮めていく様子はドキュメンタリー出身の監督らしいアプローチだと思います。
観終わる頃にはすっかりほっこりした気分に浸っていることに気付くのです。
大上段に文明批判を振りかざすことなく、さらりと文化や生活の多様性の大切さに気付かせてくれるところ、また、デンマークとの物理的距離感(ヨーロッパよりもむしろカナダの方が圧倒的に近い)のほか、政治的にも自治独立の方向に向かいつつあるグリーンランドというところを取り巻く情勢がさりげなく描かれていることも、単なるほっこり系のドラマでは終わらない奥深さを感じさせます。
なんといっても、極北の地での暮らしや風景のなんと興味深く、美しいことか。
アンダースがこの地に馴染んでいく様子がごく自然に感じられるのも、スクリーンから伝わるなんとも形容し難いグリーンランドでの美しい映像に魅了されているからに違いない、と思うのでした。
Posted by サールナートホール 静岡シネ・ギャラリー at
16:32