演劇の演出家と女優の夫婦。僅かなすれ違いから別居状態となり、離婚に向けて協議を始めることになるが、それは二人が考えていたより遥かに過酷なものだった・・・
今年のアカデミー賞の作品賞・主演男優賞・主演女優賞ほか6部門にノミネートされているこの作品は、端的に言って、離婚がどれほど大変か思い知るための映画。
アダム・ドライバーとスカーレット・ヨハンソン扮する夫婦は、はじめは離婚について大きな争点はないと考えていたのですが、奥さんが弁護士に相談してから様相が違ってきます。
ローラ・ダーン扮するやり手の女性弁護士は夫婦生活の不満点を妻から引き出し、離婚の協議を有利にするための手ほどきをしていきます。
妻が弁護士を雇ったことで、夫も弁護士を雇わざるを得なくなり、いかに相手方より有利に立つか、引き出すものを多く獲得できるか、という戦術面での争いを余儀なくされていくのでした。
子供の養育を巡ってどちらが親密か、一緒に過ごす時間、居住実態、通っている学校、調停を申請する場所等々・・・これは実際に直面してみなければ分からないこと、それを知っていることがいかに戦術的に有利であるか、ということをはじめて知ることになるのです。
愛はまだあるけどすれ違う、という夫婦の希望はお互い仲良く別れたい、というものだったのが、弁護士の代理戦争と化し、お互いの意志とは関わりのない方向でシビアなものとなっていくプロセスは、観ていて非常に辛いものがあります。
双方の言い分や協議の条件を全て聞き、その都度どちらの言い分に理があるのか聞き分けていく作業は映画を観るというより、実際の離婚の調停者になったような感覚に陥ります。
その中には誰もが実体験として持つ、人との関わりのなかでの諍いや、男女の立場や意識の違い、長い間人類がその役目として男女に負わせてきた違いに対する根源的な疑問、といったさまざまな要素がこれでもかと提示され、思わず頷いてしまうのでした。
物語は双方が子供を想う心や、お互いへの愛情と不満の間を揺れ動き、さまざまなエピソードを繋ぎながら事態の推移を見守ることになるのですが、その主軸はアダム・ドライバーとスカーレット・ヨハンソンの火花が散るような迫真の演技にあります。
冷静な話し合いのつもりが徐々にヒートアップして罵り合いの口喧嘩となる場面はこの映画の白眉。思わず身を乗り出すほどの圧倒的な迫力。
136分という時間が非常に長く感じられ、濃厚な時間を過ごしたあとに、この物語の一応の落としどころに収まるのですが、果たしてこの離婚によって本当の意味での勝者は居るのか?という一種の徒労感に襲われるのでした。
この争いは観る者が男か女か、未婚か独身か、といった立場の違いによって、出された結果に対する思いもさまざまなのではないか、と思います。
『ジョジョ・ラビット』と同じくこちらもスカーレット・ヨハンソンが靴紐を結んであげるシーンがとても印象的な映画なのですが、男の立場からすると、やはりこうしたシチュエーションでは女性は圧倒的に強い、と感じざるを得ないのでした。
「そのとき」が来るかもしれない人も、「そのとき」が来るのを避けたい人も、これから結婚する人もそうでない人も?ぜひ観ておくべき映画だと思います。
『マリッジ・ストーリー』
https://www.netflix.com/jp/title/80223779
上映中~1/24(金)連日①13:25 ②19:25
1/25(土)~1/31(金)連日①13:25
Netflix映画「マリッジ・ストーリー」