eしずおかイベント情報

静岡市葵区御幸町にある、文化施設のサールナートホールです。 三階には、静岡シネ・ギャラリーも併設しています。 いろいろな催し物、映画を上映しています。

ラウペ

愚直な政治家の17年を追うドキュメンタリー『なぜ君は総理大臣になれないのか』

香川1区の衆議院議員・小川淳也の初めての選挙から現在までを追ったドキュメンタリー。

小川淳也という特定の政治家の活動をアピールする映画ではなくて、国会議員で居続けることの苦労や、野党政治家としての悲哀、党内での地位の脆弱さ、政党に所属することで翻弄されるその政治的立場などなど、ひとりの政治家のおかれた状況を具体的に追うことで見えてくるさまざまなものを垣間見ることのできる映画だと思います。

大島新監督は、妻が地元で小川と同級であったことから撮影をはじめた。断続的に撮影を続け、あるとき「小川は政治家に向いていないのではないか?」との思いを持つようになった、とのこと。
官僚出身で、自らの信じるところに拠り政治家となった理想家肌の小川淳也は、映画のはじめの方では清新な理想を掲げ、理念先行で政治活動を行っていこうとする若い情熱的政治家の姿を映し出していますが、選挙区での当選を果たせず比例復活で当選した議員の党内でのポジションの弱さ、地元に強力な地盤を持つ与党政治家との一騎打ちで選挙区での苦戦などを描くうち、次第に政治家でいることの苦労や、理想を掲げる以外にも求められる政治家の資質、といったものがどのようなものかを浮き彫りにしていくことになります。

なぜ君は1

中盤にきて描かれる前回2017年衆議院議員選挙での民進党-希望の党の合流を巡るゴタゴタやそれを巡る小川をはじめとする所属議員の右往左往は、政党に所属することで政治家個人の主張とは別の大きな枠内で色付けを余儀なくされることのデメリットを改めて実感することになるのです。
政党に所属する議員であるということは、政治活動の基盤が政党の運営システムの上で機能しているということであり、政党間の離合集散によって所属政党に大きな変更が起きれば、その選択によって政治家としての立ち位置、主義主張の根幹に関わる問題となってきます。
かといって無所属での活動には大きな制約もある、となれば、安易に無所属という道は選べない・・・衆議院の解散から公示までの僅かな期間に民進党の実質解党、希望の党の小池代表による合流選別・排除発言、立憲民主党の結党といった慌ただしい状況の中で、それぞれの所属議員の苦労と決断は政治生命に関わる重大事を行き先も不透明な中で選択していかなければならないシビアなものであったであろうことが改めて思い返されるのでした。
これは小川ひとりの問題ではなく、野党政治家の不安定な政治基盤を象徴する出来事ということができるでしょう。それぞれが下した決断の内容と結果はともかく、所属議員それぞれが小川と同様な苦悩を経ていたであろうことは確かだと思います。

なぜ君は2

一方で、巨大与党の長期政権に対するアンチテーゼとしての野党の責任や目標を考えるときに、個人の力や理想の高さでは如何ともしがたい壁が立ちはだかっていることが見えてきます。
小川個人も映画の中で語っているように、それは民主党政権時代の数々の失敗を大きな下支えとして安倍政権が盤石な支持を確保しているという状況にあっては、野党の進むべき路は更に険しいものとならざるを得ない、ということでもあるでしょう。

小川の重ねる苦悩はそうした彼個人の資質や周囲のさまざまな状況に置かれた極めて難しい状況を多面的に浮き彫りにしていくのでした。
2017年の総選挙での小川の活動をそれまでより克明に追い、父母、奥さんや娘の選挙活動の姿を通して、大きく様変わりした政治状況の中にあっても変わらぬ選挙活動の様子を描いていきます。
公示日初日の朝における慶応大の教授の挨拶をはじめ、小川の家族が選挙を下支えする様子などはこの種の映画に似つかわしくなく思わず涙が出てしまうのでした。

政治家であることの日常の苦労を描き、ひとりの政治家にのみにフォーカスし、等身大の姿をそのままに見せつけていく手法は、なんということもなく撮り続けたはずのドキュメンタリーなのに、最後まで見届けると、レンズの向こうにある、遠大で、我々有権者が真剣に立ち向かわなければならない重要な課題の数々を怒涛の如く突きつけてくるのでした。

『なぜ君は総理大臣になれないのか』
7/31(金)~8/6(木) 連日①10:15 ②14:35
8/7(金)以降上映時間未定
http://www.nazekimi.com/

(C)ネツゲン

同じカテゴリー(ラウペ)の記事画像
この運命から、目を逸らさない――。 『ドライブ・マイ・カー』
自分で選ぶ未来のために 『17歳の瞳に映る世界』
それでも、生きていく。 『トゥルーノース』
謎が、満ちてゆく 『ライトハウス』
香港に自由を 『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』
その嘘は本当ですか? 『猿楽町で会いましょう』
同じカテゴリー(ラウペ)の記事
 この運命から、目を逸らさない――。 『ドライブ・マイ・カー』 (2021-08-23 15:44)
 自分で選ぶ未来のために 『17歳の瞳に映る世界』 (2021-08-15 12:28)
 それでも、生きていく。 『トゥルーノース』 (2021-08-13 10:36)
 謎が、満ちてゆく 『ライトハウス』 (2021-08-07 15:38)
 香港に自由を 『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』 (2021-07-26 12:41)
 その嘘は本当ですか? 『猿楽町で会いましょう』 (2021-07-12 11:44)

Posted by サールナートホール 静岡シネ・ギャラリー at 10:07

コンテンツ

アクセスカウンタ

基本情報

プロフィール
サールナートホール 静岡シネ・ギャラリー
サールナートホール 静岡シネ・ギャラリー
静岡市葵区御幸町のサールナートホールです。定期的に演奏会、講座などのイベントを開催しています。3階は、映画館『静岡シネ・ギャラリー』。ご来館を心よりお待ちしております。

お問い合わせ先

(劇場直通)

054-250-0283

〒420-0857
静岡県静岡市葵区御幸町11-14

ここでも情報発信中!

記事

過去記事
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 39人
QRコード
QRCODE
削除
愚直な政治家の17年を追うドキュメンタリー『なぜ君は総理大臣になれないのか』