2020年09月07日
| ホール上映情報| ラウペ
シンシナティの公共図書館に勤めるスチュアートは毎日図書館に通うホームレスたちと顔馴染みだったが、以前体臭が原因で退去させた男から彼と図書館が訴えられてしまう。折しも記録的大寒波の到来によりシェルターがどこも満員となったことから、常連のホームレスたちから「退館せずにフロアを占拠する」と宣言されてしまった・・・
占拠事件が起こる前に公共施設あるあるな状況を織り交ぜつつ、ホームレスと図書館の関係を丁寧に描き、寒波によりホームレスが占拠に至る事情を分かりやすく説明する前半部分は適度なユーモアと登場人物たちとの程よい距離感の描写で、本当は根深い社会問題をテーマとしているこの作品を過度に重くならない程度にコントロールすることに成功しています。
そのあたりのサジ加減の絶妙さは、監督・脚本・主演を務めるエミリオ・エステベスのセンスによるところが大きいのだろうと思います。
彼のメガネの奥に漂う抑制的な性格と、どことなく飄々とした物腰が作品全体のイメージを固定するのに大いに貢献しているのは間違いありません。
最初の訴訟沙汰のときから登場する検事役のクリスチャン・スレーターは『天才作家の妻』と同様、自分のことしか頭にない小物役がすっかり板についた感がありますが、際立って個性的な登場人物の少ない本作にあっては濃い目のキャラクター。占拠に巻き込まれて従属的だったスチュアートが主導的になっていく動機づけを行う役回り。
占拠事件の解決のために呼ばれるネゴシエーター担当の刑事役のアレック・ボールドウィンは息子がオピオイド系薬物中毒で家出、捜索のために休職を依頼中という役柄。
オピオイド系薬物は『ベン・イズ・バック』でも描かれた非常に依存性の高い薬物で、2017年にはアメリカの公衆衛生上の非常事態が宣言されるほどの社会問題となっています。
次第に明らかになるスチュアートの過去と、それを利用して事件を収束させようとする検事、事件をセンセーショナルに報道したいテレビの司会者など、中盤ではやや類型化された展開に傾きかけるものの、序盤でしっかり描いたホームレスのやむなき事情を中盤でもなぞるおかげで物語が本筋から脱線することはありません。
本に囲まれ、本のおかげで現在のあるスチュアートがこの籠城に共感し、主導的になっていくところ、公共施設としてのあるべき姿をさりげなくアピールしてからの思いがけない味方の登場など、比較的抑制的なこの映画の中にあって胸のすく展開はこの映画のキモなのですが、更に、どこの公共施設でもよいのではなく、図書館でこの占拠が行われていることの意義をしっかり描写する場面では、スクリーンを前に心の中で大いに拍手を送りたくなるのでした。
籠城が続き、閉塞状態が漂いはじめてから終盤に向けて物語をどう収めるか、というところにきての展開は予想の斜め上を行くものだったりするのですが、過度にエンタメ方向にブレることなく、この映画らしい落としどころに落ち着いたと思います。
アメリカの都市部でのホームレスの問題は人種差別と並んでアメリカの最も基本的な病根といってよいと思うのですが、あたりまえ過ぎてその存在が人々の関心から離れてしまっているのかもしれない、と思うときに、トランプ時代となってさまざまな社会問題が再び脚光を浴びるタイミングでの本作の登場は、時流に上手く乗ったといえるのではないかと思います。
適度なユーモアとコメディ要素、しっかり伝えるべきメッセージはしっかり織り込んだ絶妙なサジ加減が、この映画を声高に叫ぶアジテーションとしてではなく、ヒューマンドラマとして心にじわりと響く良作としているのだと思いました。
『パブリック 図書館の奇跡』
2020/9/4(金)~9/10(木)
①9:50~11:55
②15:35~17:40
2020/9/11(金)~9/17(木)
①10:00~12:05
②14:50~16:55
続映決定!
2020/9/18(金)~9/24(木)
時間未定
こちらからお確かめください。
公式HP
Posted by サールナートホール 静岡シネ・ギャラリー at
11:01