2020年10月03日
| 映画上映情報 | ラウペ
第二次大戦の直後、トランぺッターのマックス・トゥーニーは英国の楽器屋に愛用のトランペットを売りに来た。最後に一回楽器を吹かせてくれ、と懇願して吹いた曲に楽器屋は愕然とする。それは楽器屋が持っていた謎のレコードの曲と同じメロディだった。マックスはレコードの演奏者である“1900”との思い出を語り始める・・・
全てが見どころといえる名作中の名作だと思いますが、『イタリア完全版』はイタリア本国でのみ上映されたオリジナル全長版というべきもので、当館で10月1日まで上映していた『4Kデジタル修復版』より50分近く長い170分という長尺。
『4Kデジタル修復版』はインターナショナル版として本編を短くカットしたバージョンにあたり、トルナトーレ監督の製作意図に、より忠実なのは『イタリア完全版』ということになるのだと思います。
長くなっても決して弛緩したりせず、より濃厚で幸福な映画体験を堪能できます。
両者を比較すると、基本的にはセリフや演奏、カット割りが少しずつ長くなっていて、まったく新しいエピソードなどはほぼないといえますが、全体を通して観ると、より丁寧に描写される物語のおかげで、物語全体がより説得力あるものとなっています。
両者はそもそもタイトル自体が違い、『4Kデジタル修復版』は“The Legend of 1900”、 『イタリア完全版』は”La leggenda del pianista sull'oceano”(海の上のピアニストの伝説)となっていて、邦題はイタリア版に寄せた題名といえます。
いかにも名作らしいオーラがあふれ出す冒頭の場面も、微妙に編集が異なり、少しずつ『イタリア完全版』の方が長くなっています。
両者の違いはこれから観る方のお楽しみでもあるはずなので、具体的には述べませんが、『4Kデジタル修復版』から増えた部分には物語の進行上かなり重要と思われる部分もあったりするのです。
内容には触れずに2か所ばかり挙げるなら、“1900”がはじめてピアノを弾く場面の前のところ、“1900”が船を降りることをマックスに打ち明ける場面の前のところなどは、『4Kデジタル修復版』でカットされてしまったことが惜しまれる部分だと思います。
具体的には観てのお楽しみ。
このほかにも些細な追加が思わぬ効果を挙げている場面は数多く、やはり物語を堪能するには『イタリア完全版』の方がより味わい深いのは間違いありません。
こうした積み重ねで、“1900”が最後に下す決断が非常に説得力あるものに感じられ、より物語のカタルシスが大きくなるのだと思いました。
船の中で生まれた“1900”はその世界の全てが船の中にあり、外の世界の無限の広がりが一種の恐怖となって彼を拘束しているのですが、そのことは人間世界(=文明)の底知れぬ発展に対する恐怖とも思われ、また彼のもっとパーソナルな部分でのコントロールの及ばない、内なる部分の無限の広がりに対する恐怖とも思われました。
88と限定された鍵盤の間で奏でる音楽だからこそ、という彼の言葉は重く、やはり最後には彼の決断を尊重しなければならないのだろう、と思うのでした。
『4Kデジタル修復版』ではそれでもなお、本当にそれで良かったのか?という葛藤が鑑賞後も頭を駆け巡ったりしたのですが、『イタリア完全版』では“1900”の最後の決断に、それ以外にあり得ないのだな、と納得するに足る理由を見つけることができました。
その、微妙だけど大きな違いをご確認頂けたらと思います。
VIDEO
『海の上のピアニスト イタリア完全版』
2020/10/2(金)~10/8(木)
…イタリア完全版
①14:15~17:10
(4Kデジタル修復版は上映終了いたしました)
公式HPは
こちら
Posted by サールナートホール 静岡シネ・ギャラリー at
11:26