映画上映情報 ラウペ

今 敏没後10年特集上映での第2弾。

映画会社の撮影所が取り壊されることになり、往年の大女優藤原千代子は30年ぶりに映像制作会社の社長立花のインタビューを受けることになった。インタビューの前に立花は古びた鍵の入った小箱を手渡す。千代子の大ファンである立花はインタビューを始めると千代子の劇中の想い出の世界に入り込み、千代子の想い人「鍵の君」との再会の希望とともに、さまざまな時代を行き来する・・・



思い入れのある作品を、それを知る人と語り合うとき、思わず我を忘れて作品世界に入り込むような感覚に陥ることがありますが、この作品はそれを縦横無尽に、時空を超越した世界の中で描き尽くしていきます。
インタビューがはじまって立花がすぐさま千代子の映画の世界に入り込む潔さ、それが怒涛のごとく自由に現実の世界と行き来するさまは、もう圧倒的というほかない素晴らしさ。
この高揚感と没入感の素晴らしさはやはり体験してこそだと思います。

立花の千代子への想いは単なるファンというより、盲目的な愛情に近いそれで、『パーフェクトブルー』での未麻への神格化された想いと相通じる部分かなと思います。
千代子の人生と鍵との間に立花が関わる部分が次第に明らかになるにつれ、立花が千代子に対して想う心情の切なさに、可笑しくも心動かされるものがありました。



千代子の「鍵の君」も一目惚れというより、運命の人として千代子の生涯に大きな影響を与え続けるのですが、追いかけても追いつけない想い、というものが人の原動力となっていくことが、この壮大な「君の名は」的物語に一種の肯定感を与えていると感じるのでした。
「鍵の君」との再会の想いが劇中劇として描かれていくさまは現実と物語が交錯するメタ構造的進行がSF的・ファンタジー的であるばかりでなく、それぞれのシチュエーションに応じて戦時中から戦後、戦国時代、幕末から月面まで、それに相応しい設定で描かれていく振幅の広さが物語のスケールを表題に相応しいものとしているのでした。



物語が千代子の「鍵の君」への想いと過去の人生の回想、立花との関わりへ次第にテーマを拡げていくことで、徐々にテンションを上げ、大団円へと結びつく展開は、まさしくジェットコースターのようで、映画が閉じられるときの充実した時間への満足感が、まさしく天才の仕事を体験した、という確かな感覚となって残るのでした。

今 敏監督の傑作4作品を週替わりでお送りしている没後10年特集上映。
『千年女優』は11月26日までの上映です。
お見逃しなく。

今 敏　没後10年特集上映
『千年女優』
2020/11/20（金）～11/26（木）迄　１週間限定上映
①14：00～15：30

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