スウェーデンでミニマルなライフスタイルを学んできたジーンは、かつて音楽教室だった自宅をデザイン事務所にリフォームすることを決断する。自作の洋服をネットで販売する兄は妹の活動がいまひとつ良く理解できないながらもジーンに協力するが、母は大反対。思い切りよく「断捨離」を始めたジーンだったが、リフォームを請け負う友人のピンクのCDを棄てようとして衝突したり、かつての恋人エムのカメラが出てくるなど、「断捨離」を通じてさまざまな自分の過去と向き合うことになるのだった・・・
モノに囲まれ、既に管理不能なレベルに陥っている私は「断捨離」やミニマルなどという言葉とは殆ど対極にあるライフスタイルを送っているのですが、映画の冒頭でジーンが思い出の品もこだわりなくゴミ袋に放り込んでいく様子は、ある意味で恐怖ですらあります。
ちなみに劇中ネットで「断捨離を指南する日本人」の動画が出てきますが、あの人はひょっとして「こ〇まり」さん?と思ったりしましたが、エンディングでもクレジット無し。
家に帰ってから本物の動画を確認しましたが、似た別の人のようです。
私などは「捨ててしまうようなモノを持つ方が悪い、使えるモノを捨てるのは罪悪だ」と思ったりするのですが、何かを始めるにあたって、溢れかえったモノを整理・処分しなければ、それが大きな足かせとなってしまうことも認めなければならないのだろうと思います。
人からの贈り物を捨てようとすることで、そのしっぺ返しに遭遇するジーンの様子を見ていると「それ見たことか!」という思いに駆られるのですが、この映画は「断捨離」で夢を実現しようというジーンの苦労を描いているというよりは、家に残されたままになっていたジーンの過去の行いを次々と発見することで、自分本位で人との関係やモノとの関わりを顧みなかった自分を見つめ直す姿を描いているのでした。
モノにはそれがその人の手に渡る際にそれぞれの事情があってそこにあるわけで、それをないがしろにすることなく、心の内に整理できてこそ、はじめて手放すことができるのだ、ということをジーンは少しずつ理解していきます。
物語の後半、渡欧前に勝手に関係を断ったエムとの再会がジーンにはまた大きな課題として持ち上がります。
父が弾いていたピアノも母が手放すことに大反対。
物を手放すには心の痛みや、それに伴う犠牲もまた納得したうえでなければならない、という大きな教訓を残すのでした。
観終わってみると「片方だけが忘れても物事は終わらない、両方が忘れたときに終わるの」というピンクの言葉が改めて心に刺さります。
後半畳み掛けるようにエモーショナルなシーンが続出し、予告などで感じるあっさり風味な印象と違い、しっとりした重みの残る良作だと思いました。
シネギャラリーでは同じくモノに依存する社会へのアンチテーゼをテーマとする『100日間のシンプルライフ』も上映中。
両者のアプローチはまったく異なるものの、両方を鑑賞することでミニマルなライフスタイルへの気づきのヒントを得ることができるかもしれません。
『ハッピー・オールド・イヤー』
1/8(金)~1/14(木)連日①10:20
1/15(金)~1/21(木)連日①10:10
http://www.zaziefilms.com/happyoldyear/index.html
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Posted by サールナートホール 静岡シネ・ギャラリー at
11:41