eしずおかイベント情報

静岡市葵区御幸町にある、文化施設のサールナートホールです。 三階には、静岡シネ・ギャラリーも併設しています。 いろいろな催し物、映画を上映しています。

映画上映情報 ラウペ

第93回アカデミー賞10部門ノミネート中!!『Mank/マンク』


1940年、事故で足を骨折したハーマン・マンキーウィッツ(劇中ではマンクウィッツとの発音)は、オーソン・ウェルズの新作映画の脚本を書くためにプロデューサーのジョン・ハウスマンにカリフォルニアの牧場に連れて来られ、閉じ込められる。牧場には看護師のフリーダと脚本を口述筆記するための秘書のスーザンの3人だけ。オーソン・ウェルズからは初校を60日で仕上げるように指示される。マンクの口述する脚本は新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストをモデルとした男の一代記『市民ケーン』だった・・・
第93回アカデミー賞10部門ノミネート中!!『Mank/マンク』

この作品は『市民ケーン』を観ていることは大前提、それ以外にも登場する人名や1930年代の映画界の勢力図、登場する多くの言葉や事象をある程度把握していないと、物語の全体像を掴むのは難しい作品。どれだけ事前に予備知識を入れておいたかで、作品理解に大きな差が出る可能性は高いと思います。
逆に予習をしっかりしておくことで作品世界により深く入り込め、その分だけ高い満足度も得られる作品だといえるでしょう。

マンクが脚本を書き進める間に回想という形で時系列が行き来するので、時代が戻る時に出るクレジットを見逃さないことが重要になります。
脚本を書き始めたあと、最初の回想は1930年、MGMのスタジオで新作のプレゼンを行った後に週末をハーストの私有地で過ごすことになったマンクが、ハーストの不倫相手マリオン・デイヴィス と出会う。
そこではMGMの社主ルイス・バート・メイヤーが“天才少年”と称されるアーヴィング・タルバーグを伴ってマリオンの主演でハーストの自主映画を撮っている。
得意の話術でマンクはハーストのお気に入りとなり、その後の因縁ともいえるハーストとマリオン、マンクの微妙な関係が描かれていきます。
第93回アカデミー賞10部門ノミネート中!!『Mank/マンク』

『市民ケーン』の脚本を書き続けるマンクの様子と過去の回想が交互に描かれるうちに、1930年代のアメリカ映画界の状況やその中でのマンクの立ち位置が次第に明らかになっていきます。
MGMのメイヤーの独善的な経営や保守色の強い政治的立ち位置、メイヤーとハーストの蜜月な関係、MGMのプロデューサーたちのそれぞれの個性など、描かれる要素は多彩で、情報とセリフの洪水に溺れそうになりながらついていくのはなかなか大変なのですが、その分だけ物語の進行とともに蓄積される情報が後半に生きてくるのです。

自虐的物言いと斜に構えたマンクの世界認識のおかげで当初は一風変わった脚本家が海千山千の有象無象を相手に傑作をものにする成功物語かと思いきや、そうした単純なものではないことが次第にはっきりしてきます。
特に象徴的なのがマンクとハースト、メイヤーの間にある大きなギャップ。
マンクはこの時代のインテリ層にありがちなリベラル志向で明確な民主党支持、ハーストやメイヤーはいかにも資本家然とした立ち位置から社会主義を毛嫌いし、共和党支持であること。
1934年のカリフォルニア州知事選でのフランク・メリアム(共和党)とアプトン・シンクレア(民主党)の争いに関わる一連の出来事はマンクにとってハースト+メイヤーのラインが如何に相容れない世界の者同士なのかはっきりと現れてきます。
1950年代の赤狩りに晒されるダルトン・トランボの状況と似た印象がありますが、新聞と映画という当時的に主要なメディアが事実を歪曲し、世論を操作しようとする動きは、今に至るフェイクニュースやポピュリストたちの世論操作と基本的に同じものであることが描かれます。
歯に衣着せぬマンクが酔いに任せてハーストやメイヤーたちに対する憤りをぶつけようとするとき、マンクは思いもよらない事実を突きつけられ、その立ちはだかるものの大きさを思い知ることになるのでした。
第93回アカデミー賞10部門ノミネート中!!『Mank/マンク』

オーソン・ウェルズはMGMではないRKOピクチャーズで『市民ケーン』の製作に関わる全権を与えられ、マンクに脚本を依頼したのでしたが、マンクがハーストをモデルに『市民ケーン』を書くに至る動機には、ハーストに対する積年の思いが具現化たものでした。
脚本がハーストを揶揄したものであることが知れると、マンクにはハーストやメイヤーからさまざまな手段で妨害を受けることになります。
マンクはこの脚本がそれまでの10年に経験したものの集大成であると自覚しており、そのことはともにハリウッドで異端扱いされているオーソン・ウェルズとも立ち位置が似通っているにも関わらず、脚本を巡って二人は対立することになるのでした。
マンクとオーソン・ウェルズの仲違いの描写は、それまで物語のウェイトと比べて比較的短い扱いなのですが、ここは周知の事実であるということ、物語の主題はマンクとハースト+メイヤーとの決定的な違いに置かれていることもあり、大きく時間を割かなかったのではないかと思います。
しかし、そこでは短い中にも『市民ケーン』の重要な描写のオマージュがはっきりと刻印されて、物語の中で特に印象深い場面となっているのでした。

少々力技で物語を収めた感はあるものの、フィンチャーがこのような物語構成とした理由は、新聞記者でもあった亡き父の脚本で自身の映画を完成させたことと無関係ではないと思います。
ちりばめられたパン屑を拾い集めてこの作品のテーマを深掘りするには膨大な情報の“予習”以外にも、物語を反芻しつつ行間を読む“復習”が欠かせないのではないか、と思うのでした。
第93回アカデミー賞10部門ノミネート中!!『Mank/マンク』

最後に技術的なことをいくつか。
『市民ケーン』のリアル版リメイクともいえる本作ですが、細部に至るまで凝りに凝ったつくりは特筆に値します。
映画を観はじめてすぐに気がつくのはそのフィルムライクな映像と音響。
人物の声は敢えてハイファイな今風な音ではなく、高音部と低音部をカットしたような詰まった音響。
暗部を立ち上げて明るめにしつつ、白はハイキーな部分を抑えた映像。
フィルムグレインっぽいノイズは殆ど乗っていませんが(意図的に乗せていないのでしょう)、途中でフィルムチェンジを模したパンチとボソッというノイズまで入れる凝りよう。
映像に光源が入り込む場面ではフレアを入れてレンズ性能の良くない時代のクラシックな映画風味を追加しています。
モノクロの映像の中にも計算され尽くした技法を凝らした映像を堪能するのも本作の大きな楽しみの一つといえるでしょう。

第93回アカデミー賞10部門ノミネート中!!『Mank/マンク』

膨大な情報の洪水を把握するために、以下、予習と復習用にポイントとなるキーワード集をまとめておきます。

ハーマン・ジェイコブ・マンキーウィッツ(Herman Jacob Mankiewicz)

オーソン・ウェルズ(Orson Welles)

『市民ケーン』(Citizen Kane)
・RKO(=Radio-Keith-Orpheum) Pictures

ウィリアム・ランドルフ・ハースト(William Randolph Hearst)
・ハースト・キャッスル(カリフォルニア州サン・シメオンSan Simeon)
マリオン・デイヴィス (Marion Davies)

ルイス・バート・メイヤー(Louis Burt Mayer)

デヴィッド・O・セルズニック(David O. Selznick)
アーヴィング・タルバーグ(Irving Grant Thalberg)
ジョージ・S・カウフマン(George Simon Kaufman)

1934年カリフォルニア州知事選挙
・フランク・メリアム(Frank Merriam)
・アプトン・シンクレア(Upton Sinclair)

ジョセフ・コンラッド「闇の奥」
ミゲル・デ・セルバンテス「ドン・キホーテ」

オオミチバシリ(Greater roadrunner)

第93回アカデミー賞10部門ノミネート作品の実力を是非ご堪能いただければと思います。


『Mank/マンク』
2021/4/9(金)~4/29(木)迄上映予定

2021/4/9(金)~4/15(木)
①14:25~16:40
②19:00~21:15

2021/4/16(金)~4/29(木)
時間未定
決まり次第シネ・ギャラリー公式HPにて掲載いたします



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 【重要】2021/8/14(日)『映画:フィッシュマンズ』18:30の回、上映時間変更のお知らせ (2021-08-07 15:24)

Posted by サールナートホール 静岡シネ・ギャラリー at 11:56

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(劇場直通)

054-250-0283

〒420-0857
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