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静岡市葵区御幸町にある、文化施設のサールナートホールです。 三階には、静岡シネ・ギャラリーも併設しています。 いろいろな催し物、映画を上映しています。

映画上映情報 ラウペ

こんなカエルに誰がした!? 『フィールズ・グッド・マン』


グラフィックアーティストで漫画家のマット・フューリーは2005年、自らの大学生活の体験を元に”Boy's Club”のシリーズを描き始めた。その中のカエルのキャラクター「ペペ」は「feels good man(気持ちいいぜ)」のフレーズとともにネット上で拡散し、ある時点からオルト・ライト=オルタナ右翼(alt-right=Alternative Right)のネットミームとして利用されるようになる。ペペの誕生からマット・フューリーがペペを本来の姿に戻すべく奮闘する様子を記録したドキュメンタリー。
こんなカエルに誰がした!? 『フィールズ・グッド・マン』

ミーム(meme)とは文化や情報、考え方や思想などを伝達するための手段やアイテムもしくは単位のことで、ネットミームはインターネットを介して伝達されるミームのこと。
その主な伝達手段はSNSやブログ、掲示板などで、そこで模倣され、拡大再生産(=拡散)されることでネット民に共有される一種の共通認識ということになるのだと思います。
アメリカにおけるコミックやアニメなど、ビジュアル系のサブカルチャーを俯瞰できないと”Boy's Club”やペペの人気の秘密というか、その理由にはなかなかピンと来ないところもあるのですが、マットがマイスペースで”Boy's Club”を始めた際に、世間に背を向けるニート(NEET=Not in Education, Employment or Training)がペペに親近感を覚えたとするところはなるほどと納得できるものがあります。
日本にはネットミームに相当するアイテムとしてAA(ASCII art)という偉大なネットカルチャーがあり、2ちゃんねるなどで隆盛を極めたのはご存知のとおり。
“引き籠り”に代表されるニートはアメリカも日本も同様にその表現方法として匿名掲示板でこうした遊びで自己実現を試みていたのだと思いますが、ペペが認知され、オルト・ライトのネットミームとして転用されるようになったのは、ペペが一瞥しただけでそのキャラクター性を認知し記憶されやすい明快さを持っていること、他に似たもののないオリジナリティが際立っていたことなどが悪い方向に作用したのではないか、と思います。
こんなカエルに誰がした!? 『フィールズ・グッド・マン』

オルト・ライトがSNSを地盤としながら勢力を拡大していく過程は日本のネトウヨの拡大とまったくの相似形であり、なかなかに興味深いものがあります。
オルト・ライトの定義というべきものは曖昧模糊として捉えどころの難しいところですが、基本的には旧来の右翼思想であるところの排外主義、他民族への差別、白人至上主義、反フェミニズム、ナショナリズムといった思想を、組織に拠らず主にネット(=SNS)を介して拡大してきた右翼勢力のことだと考えます。
その特徴はネットでの匿名性を隠れ蓑とすることで、自身の内面世界を隠さず曝け出すことで先鋭化し、自らの価値観に敵対する考え方や勢力を極度に嫌う、個々のアイデンティティ表出の集合体としてひとつのムーブメントを形成している、と捉えることができます。
排外主義やナショナリズムへの傾倒、リベラル的思考、既存のメディアやグローバリズム、フェミニズムや貧困対策などの社会制度などに反対する、というオルト・ライトの特徴は日本のネトウヨとその成立のプロセス、特徴とも殆ど同じといってよいでしょう。
ある意味、ネットの普及こそがこうしたオルト・ライト≒ネトウヨという右翼的ポピュリストの勢力を拡大した最大の理由であると理解できるのです。
こんなカエルに誰がした!? 『フィールズ・グッド・マン』

ニートが自己実現の場としてネットを拠点としたのと同様に、オルト・ライトが拡大していくことで、ペペの流用はまさに必然として起きた、ということだと思います。
ノーミー(ノーマルな人々)を嫌い、既存の権威やメディアに対する嫌悪を隠さないニートのアイデンティティはオルト・ライトとシームレスに繋がっており、ドナルド・トランプの登場はこうした背景にうってつけの機会となったのでしょう。
トランプ自身はオルト・ライトが自身の支持層であることを嫌っていたようですが、現実にトランプを支持した人々のど真ん中にオルト・ライトたちが居たことは世界の大半が認めるところだと思います。

マットにとってペペのオルト・ライトのネットミーム化は大変不本意なものであったことは間違いありませんが、SNSで拡散され二次利用が拡大していただけの頃には、ある程度寛容な立場だったとのこと。
自らがマイスペースなどで作品を発表していたネット民であり、悪意のない二次利用に寛容であったことは充分に理解できます。
それがオルト・ライトに利用されていると知った後には、既になす術は殆ど残されていなかった、というわけです。
こんなカエルに誰がした!? 『フィールズ・グッド・マン』

マットはペペを本来の姿に取り戻すべく、訴訟やキャンペーンを始めたわけですが、それが功を奏したといえるまでに至らないということは、一旦人々の間に定着したイメージを覆すことは、その作者であっても不可能に近い、という現実の恐ろしさを端的に示しているといえるでしょう。

ひとりのアーティストが生み出したキャラクターが悪夢のような禍のシンボルとして利用されてしまうという驚くべき事実、そこに潜むもっと根の深いオルト・ライトの拡大など、実に多くの教訓と示唆を与えてくれる作品だと思います。
トランプ禍が一応去り、ペペがこの先マットが望むようなキャラクターとして復活できるのかどうかは分かりませんが、ここで提起されたさまざまな問題は、今後も大いに注視していかなければならない、と思うのでした。

『フィールズ・グッド・マン』
2021/4/16(金)~4/29(木)迄上映

2021/4/16(金)~4/22(木)
①11:40~13:20

2021/4/23(金)~4/29(木)
①13:25~15:05



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 【重要】2021/8/14(日)『映画:フィッシュマンズ』18:30の回、上映時間変更のお知らせ (2021-08-07 15:24)

Posted by サールナートホール 静岡シネ・ギャラリー at 14:38

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