太平洋戦争頃っぽい日本のようなところ。川を挟んで朝9時から夕方5時まで原因も定かでない戦争を30年も続けている二つの町、津平町と太原町。津平町に住む露木は毎朝「基地」まで出勤して対岸に銃を撃ち、夕方には帰宅する毎日を送っていた。昼食は息子が戦争に行っている定食屋、帰宅時には「なんでも知っている」オヤジの居る煮物店で煮物を買って帰る。そんなある日、露木は音楽隊への異動を命じられる・・・
露木は毎朝同僚の藤間と玄関前で合い、道を直角に曲がり「基地」まで行く。「基地」では町長の訓示があり、なんだかよく分からないが川向うの脅威が日増しに大きくなっているという。
定食屋のオバちゃんも川向うはコワいところ(らしい)というが、実際川向うの様子を知る者は居ない。
町長や町役場、「基地」の職員の発言などを聞いていると、そこはかとなく漂うのは町のためにそれぞれが課された果たすべき役割について、正体の良く分からない川向うの町への盲目的な恐怖と敵意。
日々の日課としての戦争についてのやる気のなさと周囲に合わせてそれなりに兵役を果たしていれさえすれば、変わらぬ毎日を送れるという怠惰と無気力。
こうした人々の様子に漂う違和感と居心地の悪さはカリカチュアライズされた戦争と全体主義、旧来の価値観への表層的な皮肉かと思われるのですが・・・
まるでパントマイムのような進行にこの先物語らしい展開などあるのか?
と思っていると、露木に音楽隊への異動が命じられ、気が付くと少しずつ物語が動いている、という具合。
露木がようやく合流した音楽隊の中にも厳然と上下関係が存在し、女性へのあからさまな偏見と差別、それもまた隊長の胸先三寸でヒエラルキーが決まっているらしい。
夕方帰宅するとどこからともなくトランペットの音が聞こえるのに気付く。そのトランペットは川向うからのものであるらしいことが分かってきます。
露木は久しぶりに箱を開けたトランペットを川べりに持っていき「青きドナウ」の一節を吹く・・・
単なる敵としか思っていなかった川向うはどういうところで、どんな人が住んでいるのか。向こうにも音楽隊はあるのか?
露木の中にこれまでの日常からは感じなかった疑問が徐々に湧いてきます。
さっぱり要領を得ない町長の話や煮物屋の主人の言う凄い部隊が到着するらしい、という噂とともに物語は後半に向かって少しずつ進んでいく・・・
棒読みのセリフ、無表情で動作も機械的な演技、終始このスタイルで戦争を茶化すコメディと聞いて、ちょっと身構えてしまう人もいるかもしれません。
しかし、このアキ・カリウスマキともロイ・アンダーソンふうともいえる作品に込められた内なる熱量の高さに最後は圧倒されてしまうのでした。
幾百もの言葉や具体的描写ではなく、心の奥底に直接響く衝撃。
この衝撃はやはり体験してこそのもの。
トラウマ級のインパクトといっても良いと思います。
それをぜひ劇場で体験して頂ければと思います。
『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』
2021/4/30(金)~5/13(木)迄
2021/5/7(金)~5/13(木)
①17:50~19:40