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静岡市葵区御幸町にある、文化施設のサールナートホールです。 三階には、静岡シネ・ギャラリーも併設しています。 いろいろな催し物、映画を上映しています。

さわ

ウディ・アレンの新作は雨のNYを舞台にしたロマンチック・ラブコメディー!『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』

週末をニューヨークで過ごすため小旅行に出かけた大学生カップルのギャツビーとアシュレー。マンハッタンについた2人は一時的に別行動をとるのだが、アシュレーの周りには次々と年上の男たちが現れ、ギャツビーも友人の撮っている映画に出演してキスすることに。美しい雨がニューヨークの街並みを濡らす中、再会できそうにない2人の"本当の恋"はどこで見つかるのだろうか?

美しく、罪深く、そして何より優しい映画であると思いました。劇中に「これは映画じゃなくて現実だ」「現実は夢をあきらめた人の世界よ」という象徴的なやりとりがありますが、まさしくこの映画で描かれるのは、「現実」ではなく「夢」ということになるでしょう。  

まず登場人物について。予告やあらすじを見ると、イケてる若者3人が織り成す三角関係的なロマンチック・ラブコメディー、なんて想像してしまいますが、多分それは間違いです。ハッキリ言ってこの物語はギャツビーたったひとりのための物語だと思います。乱暴な言い方をすると他の登場人物は全員、記号と言ってもいいくらい中身が描かれません。しかしこの「ギャツビー以外はどうでもいい」くらいの距離感が登場人物たちの自然な魅力を最大限に引き出してますし、劇中で起こるいくつかの悲劇をユーモアに変えてくれます。(特にアシュレーは顕著で、ここまで軽率で「中身からっぽ」な女性像は批判に値するものだと思う一方で、ウットリするほどのチャーミングさを感じてしまうのも確かです。)また、ひとつひとつの会話も洒脱で洗練されているのにも関わらず、まったく鼻につかないのも最高です!

レイニーデイ

もう一つは舞台について。メトロポリタン美術館、カーライル・ホテルなど、舞台は次々と変わっていき、観ているだけでニューヨークの街を観光している気分になれます。「観光」という文化が往々にしてその土地の特定の部分だけをクローズアップした虚構的な側面があるように、この映画で描かれるニューヨークも幻想と言っていいでしょう。黒人も貧困者も失業者もいない世界を、映画はただただ甘美に映し出します。さらに街には雨が降り注ぎ、いっそう画面を美しく哀しくさせていきます。そして極めつけは極上の音楽(ティモシー・シャラメのピアノ弾き語りはマジでヤバい!)です。これが約1時間半ずっと続くという美の大洪水を前に、もはや虚構だろうがなんだろうが、そんなことどうでもよくなって、ただただウディ・アレン万歳!優勝!という気持ちになってくるのは、私が間違ってるのでしょうか?(笑)。ちなみに映画「バラサイト」では雨が格差社会あるいは気候変動のモチーフとして、使われていましたが、この映画はそんなこと1ミリも考えていないところが素晴らしいのです!(笑) 

レイニー2
  
以上のように、人も街も記号化され、虚構化されたニューヨークでギャツビーだけが悩める人間として存在しています。そして、そんな彼に訪れるのは「デートが台無しになりそう」「恋人を年上の男性に奪われるかもしれない」という極めて人間的な悲惨さであり、こんなのもう、ギャツビーを愛さざるを得ません。そしてそれゆえに、ラストシーンで彼を待っている運命は、あんなにも生々しく感動的で、忘れられないものになるのでしょう。

監督であるウディ・アレンの疑惑と#MeToo運動によりお蔵入りになりかけた今作。「作り手に罪はあっても作品に罪はない」なんてことがよく言われますが、この作品にはたくさんの確信犯的な罪があり、それゆえに美しいのです。嫌になる現実を圧倒的な美しさや虚構で覆ってしまう、そこにこの映画の優しさを感じます。こんな世の中だからこそ、今観てほしい映画です。それに梅雨にもぴったりですし!

『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』
7/10(金)~7/16(木)連日①12:05 ②14:15 ③17:30
7/17(金)~7/23(木)連日①12:05 ②14:15 ③17:30
7/24(金)~7/30(木)時間未定

https://longride.jp/rdiny/


Photography by Jessica Miglio (C)2019 Gravier Productions, Inc.


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Posted by サールナートホール 静岡シネ・ギャラリー at 13:15

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