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静岡市葵区御幸町にある、文化施設のサールナートホールです。 三階には、静岡シネ・ギャラリーも併設しています。 いろいろな催し物、映画を上映しています。

さわ

あなたを描くこと、時系列への反抗 『燃ゆる女の肖像』

 18世紀フランス。画家のマリアンヌは貴婦人から、娘のエロイーズの見合い用の肖像画を頼まれる。しかしそれは、結婚を望んでいないエロイーズ本人には伏せられた依頼だった。マリアンヌは画家という立場を隠し、散歩の相手としてエロイーズと親しくなり、こっそり観察した姿を描き上げるが、真実を知ったエロイーズに酷評されてしまう。描き直すと決めたマリアンヌに対しモデルになると申し出るエロイーズ。2人はやがて激しい恋に落ちるが絵の完成は別れと望まぬ結婚を意味していて・・・


 まず真っ先に伝えたいのは、画が本当に素晴らしいということです。単純に「絵画的」の一言で形容できないような美しく独特のカットが2時間ずっと続きます。どこで切っても最高です。「絵画的」という言葉を使うとどこか幻想的なイメージがしますが、実際にはものすごく強烈で生々しくてビビットな感じ。まずディティールに対するこだわり、とりわけ「もの」に対する執着がすごいです。絵画、ドレス、ワイン、煙草、刺繍、暖炉の火・・・。どれも匂いや質感、温度まで伝わってくるような「もの」としての力強さがあります。そういったディティールへのこだわりがあるからこそ、ひとつひとつのシーンも、すごく体験的というか、リアリティをもって胸に迫ってきます。

あなたを描くこと、時系列への反抗 『燃ゆる女の肖像』

 さらに強烈なのは音楽の使い方です。作中ではヴィヴァルディ協奏曲第2番ト短調 RV 315「夏」と「LaJeune Fille en Feu」の2曲だけしか使われていません。またこの2曲は劇伴ではなく、実際に劇中で登場人物が聴いている音楽です。舞台が18世紀フランスの孤島であり、音楽がなかなか聴けない非日常のものとして描かれており、劇伴がないことで観ている私達も当時の感覚を共有できます。だからこそこの2曲が使われるシーンでは、人の感情を開放させる音楽本来のパワーを感じて震えました。

 また本作はジェンダーという切り口においても鋭さがあります。「見合い用の肖像画」というモチーフや、18世紀における女性画家と同性愛のありよう、女性の連帯、妊娠と中絶などを描き、社会的抑圧が彼女たちの関係性にどう影響を与えているか、そこから二人の愛がどう逸脱していくかまでを繊細に切り取っています。特に肖像画というモチーフを使って「見る/見られる」という関係性から脱却していく様は爽快でした。しかしこういったジェンダーの問題は台詞として直接に表現されたり、登場人物がこのことについて葛藤するようなことはありません。これらが当たり前だった時代において、当たり前に受け入れ生きていく女性の姿、そのあまりの自然さは、いっそう問題の所在を伝えています。

あなたを描くこと、時系列への反抗 『燃ゆる女の肖像』

 個人的に一番いいなあと思ったのは、この映画は「2人の愛の過程」を描いてるだけでなく「過去や過去になってしまう現在とどう向き合うか」という問題も視野にいれているところです。そもそも冒頭でわかるように映画の大部分はマリアンヌの回想という形です。また「振り返ること」の反復や、思い出としてペンダントと本に絵を描くシーン、ラストシーンなど常に「過去」や「過去になってしまう現在」と向き合っています。望まぬ結婚というタイムリミットを前に2人は絵画を完成されることで愛を永遠のものにしようとしているように思えます。そう考えると絵画の完成は「2人の別れ」と「時系列への反抗」という二重の意味をもって映ります。それを踏まえるといっそう2人の恋愛が激しくて切ないものに感じられます。そしてラストシーン、ああこれが恋愛ですよね、と思いつつ痺れました。エロイーズ、かっこよかった。

『燃ゆる女の肖像』
1/8(金)~1/14(木)①14:40 ②19:10
1/15(金)~1/21(木)①14:25 ②19:20
上映中~2/4(木)①15:30

https://gaga.ne.jp/portrait/

(C)Lilies Films.




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Posted by サールナートホール 静岡シネ・ギャラリー at 14:03

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